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 昨日から彼女は凄まじく疲れていた。
 最近やたらと出撃回数が増えたし、加えて実は一般人より三割り増し(当社比)に独占欲が強かった恋人兼上司のおかげで、疲労もストレスもピークに達していた。
 だからその当の本人がそーっと寝室に侵入してきても、不覚にも彼女は気付かずに眠ってしまっていた。
 そしてその恋人がただ彼女の寝顔を
見るだけでよしと思うはずもなく、
「オレに無防備に寝顔を見せた己のうかつさを呪え」
 誰かのと似たような台詞を言ってベッドの端に膝を乗せる。
 ぎしっとベッドが微かに軋みをあげたが、彼女はよほど深い眠りの中にいるのか一向に目覚める気配はない。
 口の端にかなりヨコシマな笑みを浮かべて、彼はそっと彼女を守るように包む毛布に手を伸ばしていった。


* * *


 息苦しさを感じて、はうっすらを目を開けた。
 ぼんやりと視界に入ったのは自分の顔を覗き込んでいる誰かのシルエット。
「・・・リュウ?」
 また朝っぱらからゲームの誘いだろうか。
 疲れてるから今日は勘弁してと寝ぼけたまま口を開こうとしたのだが、
「誰がリュウセイだと?」
 リュウセイとは似ても似つかない低い声に相手を間違えたことを悟る。
「しょうさぁ?・・・どーしたんですかぁ? こんなあさはやくから〜」
 どこかに出かけるにしてもまだ早い気がするし、それなら事前に予定を空けておくように言ってくるはず。
「せっかくの休日に恋人を前に“少佐”はないだろう?」
 そう言って苦笑する彼は思いのほか優しい手つきで髪をすく。
 普段とちょっと違うそれには気づいた。
(そっか、これ夢なんだ)
 自分の見ている夢なんだからと思うと急に安心してきた。
 なんたって普段の彼は訓練中は口うるさいし戦闘中は厳しいし、他に周囲に誰かいると全然そっけないくせに、プライベートで二人っきりだとやたらかまってきてちょっぴりイジワルというとんでもない男なのだから。
「二人のときは名で呼べと、いつも言っているだろう?」
「ん、イングラムvv」
 微笑んで名を呼ぶと、ご褒美とばかりに唇に軽く口付け。
 普段なら思いっきり濃厚なキスの後にとても
口ではいえないようなコトをしてくるのだが、やはり彼の唇は軽く触れただけでおとなしく離れていく。
(普段もこれくらいだと嬉しいんだけど・・・)
 別に少々強引に押し気味にするほうが彼らしいといえば彼らしいのだが、としてはもう少し時と場合(と明日の予定/笑)を考えて欲しいのだ。
 そうでなくても最近の出撃回数はうなぎのぼりに増加中。でもって敵の数も日々増えているのに、これ以上腰痛なんて敵まで増やされても困る。
 そのうち冗談でなく撃墜されそうでは密かに危機感すら感じていたのだ。
 とはいえ、自分の上に乗っかって
何もせずに自分を見ているだけのイングラムも怖いと言えば怖い。
「イングラム?」
 少し首をかしげて名を呼ぶと、ふぅと息を吐いて再び口付けられる。
 夢の中ならいいかと根拠のない安心感で自分から相手の首に腕を絡めると、今度は髪に手を入れられてより深く唇を重ねられた。
 しかしまだ息ができないほど濃厚なものではない。
 離れかけたそれに名残惜しげに自分から触れる。
「いいのか? 明日も訓練があるぞ」
 一応形ばかりの言葉は出るものの、苦笑交じりの声に微かに熱がこもっていたりするから説得力は皆無。
「いいよ」
(どうせ夢だし・・・)
 夢の中でイングラムが優しい分自分がちょっと大胆になってもいいかななんて思って、ぎゅっと抱きつくと腕が背に回されてそっとベッドに横たえらた。
 そっとパジャマの上から触れられただけで無意識にはぁっと熱っぽいため息が漏れる。
(夢でも結構リアルなんだ)
 それとも実は自分はかなり欲求不満だったのか。
 最初は静かに、そして段々と大胆に触れてくる手に息を乱しつつは何かおかしいと感じ始めていた。
 ぷちんぷちんと一つずつボタンが外されていく感覚も、タンクトップ越しに感じる手の体温も妙に現実じみていて。
 でも指先が触れるだけでとんでもなく気持ちよくて。
 なんかもうどうでもいいやと思い始めたとき、イングラムがの耳に唇を寄せて小さく囁いた。
「今日はやけに大胆だな。久しぶりだが、そんなに欲しかったのか?」
 意地悪な囁きと共に軽く耳たぶを甘咬みされて、
「ひゃぁん」
 は思わず声を上げた。


* * *


「ひゃぁん・・・っ!?」
 自分で上げた声に驚いて目を覚ます。
「って、あれ?」
 何か体がだるい・・・というか重い。
「どうした? 
 上からするからかい半分の声。
「少佐!?」
 しかし起き上がろうとして何故か失敗。きょろきょろと辺りを見回して、それが彼が自分の上に乗っかっているからだとわかった。
「あの・・・なんで少佐が私の上に? というかここって私の部屋、ですよね?」
 わけもわからずそう尋ねると、
「どうした? さっきまであれほど大胆だったというのに」
 苦笑交じりにイングラムは自分を見ろとを指差した。
「はい?」
 何か嫌な予感がして恐る恐る自分の状態を確認。
「あの・・・少佐」
「先に言っておくが、誘ってきたのはお前だ」
 の胸元にはどう見ても今しがた付けられたばかりにしか見えない紅のあと。
「記憶にないのか?」
「全く全然ありません」
 まさか夢の中で・・・とはとても言えない。
「あの、私何かしました?」
 思い切って聞くと、イングラムは苦笑交じりに朝のことを話してくれた。


・・・」
「しょ〜さぁ?」
 まだ寝ぼけているのかとろんとした眼差しを向けて今にも眠りの中に落ちてしまいそうな声。
「せっかくの休日に恋人を前に“少佐”はないだろう?」
 苦笑交じりに髪をすかれ、その感覚に軽く体を震わせて小さく笑う
「くすぐったぁ〜い」
 小さな子供のように振舞うのは寝ぼけている証拠。
 というか彼女自身まだ夢の中にいるとでも思っているらしく、さほど抵抗することもなく無邪気に笑っているだけ。
「二人のときは名を呼べと、いつも言っているだろう?」
「ん、いんぐらむvv」
 寝ぼけつつもこちらの言っていることはだいたいわかっているらしく、しかし思考はかなり鈍っているのか普段は恥ずかしがってなかなか口にしてくれない自分の名を、ハートマーク二個付きで言ったはまだ微笑んだまま。
 その花も思わず綻ぶような笑顔に軽く触れるだけの口付けを落とす。
 顔を離すと、の表情は子供っぽいものから大人の女性の艶かしい、しかし幸せそうなものに変わっていた。
 初めて見るその表情にしばし見とれ、イングラムは彼女の顔をじっと見つめていた。
「イングラム?」
 呼ばれてはっと我に返ると、どうしたの? といった表情でが自分を見つめていた。
 先ほどの妖艶さは欠片もなく、あどけない子供の甘えるような声音も心持ち傾けた首の角度まで自分を誘っているようにしか見えない。(←もちろんイングラムのご都合的主観)
 そして再びした口づけの後・・・。


「というわけだ。オレに非はない」
「・・・それってむしろ
大有りって言いません?」
 の意識が混濁しているのをいいことに好き勝手やったこの男は、
「なぜだ? あんなに良さそうな表情でオレのあ・・・」
「わーっ、それ以上言わないで!!」
 恥ずかしげもなく惜しげもなくそういう台詞を言ってくるのだ。
 こんな姿を他の人間が見たらなんと思うか。
 相当な数の女性ファンは・・・むしろ
喜ぶかも。
「じゃなくてっ」
 嫌な想像をしてしまって慌てて首を振る
「言っていいのか?」
「ちがーうっ」
 とにかくそこをどいてと腕を突っぱねるが、イングラムは動く気がないのかの顎に指を当てて、
「それでは改めて」
 などと言い出す始末。
「少佐、
キャラ違います・・・」
「・・・そうか?」
 付き合い始めてが知ったこと。
 嫉妬深いことと人は見かけに寄らないことの意味と解りやすい
実例
「とにかくそこをどいてください」
「断ると言ったら?」
「大声で助けを呼びます」
「ではその口を塞いでしまえばいい」
 なるほど。合理を追求するとそういうことに・・・。
(て、なるかーっ)
 心の中で一人ボケ&ツッコミをしては必死に迫るイングラムの顔を押しのける。
「爪、立てますよ」
 トドメの言葉に仕方なく離れるが、彼は依然として上に乗っかったまま。
「だからっ、どいてください!」
。お前、最初にオレを見て何と言ったか覚えているか?」
「は?」
 突拍子もない質問には首をかしげた。
 イングラムを見て最初に口にした言葉。
「“しょうさ”?」
「違う」
 じゃあなに? と記憶の糸を探る
 そして・・・思い出した。
「あ・・・」
「その顔では思い出したようだな」
 そう。は“リュウ?”と言った。
 休みの日の朝によくゲームの誘いに来るリュウセイとイングラムを間違えたのだ。
「この部屋は確か暗証番号式のオートロックだと記憶しているが?」
 つまり中に入るには暗証番号を押すか中の人間に開けてもらうかしかない。
「どういうことか説明してもらおうか?」
「えっと・・・その」
 別にリュウセイなら自分に何かするとは思っていなかった。しかし誘いに来るリュウセイが毎回逆に寝顔の誘惑と必死に戦いつつ彼女を起こしているという事実を本人は知らない。
 加えて訓練のある日には、朝にとことん弱いを起こしにくるライが同じような目に遭っていることも彼女は知らない。
 もちろん二人とも上官の報復を恐れてのこと。
「どうしてリュウセイがこの部屋の暗証番号を知っている?」
 詰め寄るイングラムはかなり怒っているらしく、眉間にこれでもかとしわを寄せてずずいっと迫ってくる。
「じゃあ、どうして少・・・イングラムが暗証番号知ってるんですか?」
 とっさに言い返す。ちなみに途中で呼び方を変えたのはその方が簡単に答えてくれると踏んでのこと。

 も意外と策士である。

 それに見事かかったのかイングラムはあっけらかんとした感じで答えた。
「恋人の部屋の暗証番号など知っていて当たり前だろう」
「・・・」
 訂正。
 イングラムの方が一枚どころか
五十枚近くうわてだった。
 なんせは彼に自室の暗証番号を教えた記憶はない。
 逆に彼の部屋の暗証番号は知っている。
 もちろん部屋の主が“いつでも
歓迎する”と頼まないのに自ら教えてくれた。
 しかもさりげにの誕生日だったりするから忘れようにも忘れられず、かといって仕事以外で自分から不用意に訪れるような自滅行為もしない。
 謀られたことは何度かあるが。
「では質問を変える。この部屋の暗証番号を教えた相手は誰と誰だ?」
 二名限定で尋ねた時点でなんとなく察しがついているらしくは諦めて真実を教えた。
「リュウセイとライです」
「・・・やはりな」
「でもリュウは時々ゲームの誘いに来るからだし、ライは朝起こしに来てくれるだけだからっ」
 無駄だと思うがしないよりはマシなのでとりあえず言い訳してみる。
 今からすでに明日の訓練風景が目に浮かぶ
 問答無用でしごかれるリュウセイとライの姿が。
(ごめんっ、二人とも)
 心の中で詫びつつ、何とかしごきが軽くならないかと精一杯可愛らしい仕草と普段は絶対に出さない甘えるような声音で、
「ね? だから別に二人は悪くないよ?」
 と必死に
命乞い。(←いろんな意味で正しい表現)
「そうだな」
 やっともらった言葉にふぅと安堵のため息を漏らす暇もなく、
「ところで教えたのはその二人として、他に知っている者は?」
 一番つっこんで欲しくなかった質問に吐きかけた息が口元で凍りついた。
「少・・・イングラム」
「他には?」
 言いたくない・・・つーか絶対に言えない。
「いないのか? 怒らないから正直に言え」
(貴方の“怒らないから”が一番信じられないのよぉ)
 そう言って怒らなかったためしはもちろんありませんとも。
 そして偽りを口にしても真実を告げても彼の怒りが臨界点突破するのは目に見えている。
「えっと・・・」
 だから口ごもるしかない。
 なんとかはぐらかせないかと思案しているうちに、イングラムがため息混じりにぼそっと呟いた。
「・・・シュウだな」
「うっ」
 このときほどが自分の性格を恨んだことはないだろう。
 図星だと表情に出てしまって、しまったと思ったときにはもう遅い。
「奴も知っているのか?」
 表情はそのままで背後に素敵な色のオーラを揺らめかせてイングラムが問う。
 ここまでくればもう言い逃れなどできない。
「・・・はい」
 おとなしく頷くと、
「どうして知っている?」
 そう言ってさらに詰め寄ってきた。
 イングラムとそういう仲になった後も何かと理由をつけてDC総帥殿は基地を訪れてはを口説きつつセクハラ紛いのことをしていた。
 なんたって人類で唯一生身でイングラムと互角に渡り合える男である。
 あるときなどいきなり部屋に入ってきて問答無用で押し倒されそうになったこともあった。その時はとっさに泣き真似をして事なきを得たのだが、懲りないこの男は日々のことを虎視眈々と狙っているらしい。
 美形二人(合計するとそれ以上)に迫られるのは女冥利に尽きるかもしれないが、いかんせん相手が悪い。
(もうちょっと・・・普通の恋愛したかったかも)
 まあそれでも一応好きになった相手とこうして両思いになれたのだから文句は言いたくない。
 言いたくないのだが・・・。
(生きてるうちに宇宙崩壊なんて絶対に嫌)
 だって、ほら。アストラナガンとグランゾンが戦うと宇宙を崩壊させるって言われてるし。
 ちなみにイングラムの愛機はビルトシュバインなんですがね。(蛇足だがの愛機はR−GUNである)
「それで、どうして奴が暗証番号を知っている?」
 苛立ちの滲む声に否応なしに現実に引き戻される
「ここの管理システムにハッキングしたそうです」
 自分の持てる技術を私利私欲のために惜しみなく使う男、シュウ=シラカワ。
「・・・その手があったか」
「じゃあイングラムはどうやってここの番号知ったんですか!?」
「10000通り全て試した」
 さらりと答えるイングラム。
「うそ・・・」
 呆れる
「お前への愛だ」
 はっきりきっぱり言い切ってイングラムは改めての顎に指を這わせる。
「では改めて」
「って、何が改めてなんですかっ」
「お前はオレの心を著しく傷つけた。その報いは受けてもらう」
 さも当然といた口調で手は顎から頬に移動中。
「私が何をしたって言うんですか!?」
 むしろされてるのは私ですとツッコミを入れる前に、
「恋人と同僚を間違えるお前が悪い」
「うっ」
 そこを突っ込まれると事実だけに詰まるしかない。
「でもっ、私が寝てる間に散々や・・・ひゃっ」
 反論なんて何のその。頬を撫でる手に集中するあまり、鎖骨周辺に付けられたあとをなぞる手に気がつかなかった。
「ちょっ、明日は訓練が」
「休めばいい」
「そんなっ・・・あぅ。でも、もし・・・出撃っ命令が出たら?」
 そうでなくても最近回数が増えているというのに。
「そのときはオレがお前を守ってやる。お前はR−GUNに乗っているだけでいい」
 言い切って押し倒される。
「そんなこと言ってられませんっ」
 なんてやり取りの間に言っているの方が言ってられる状態でなくなってきていた。
「だめっ・・・だめだってば〜」
 などと抵抗もすでに無意味。
「なんで・・・こーなるのよぉ〜」
 その日、朝からの部屋からそんな声が聞こえたらしいが、不幸にもそれを耳にしてしまった者たちはそろって聞かなかったことにしたという。
 もちろん、自身の身の安全と幸福な未来のために。



 そして次の日、狙ったように襲来した異星人の機体を試作機とは思えない鮮やかな動きで次々と撃破していくビルトシュバインと、対称的に新型とは思えないぎこちない動きで何とか戦うR−GUNの姿が戦場にあったという。
 加えて数日後にの部屋の暗証番号が変えられたのだが、同じ日にDC本部で謎の爆発事故が発生して総帥の執務室が見事吹き飛んだことを彼女は知らない。

 人類が異星人を退けるか、侵略されるか、それとも自滅するか。
 全ては彼女の双肩にかかっている・・・のかもしれない。

Fin.


   言い訳じみた独り言

     1374Hit疾風瀬菜さまのリクエストで“突然少佐が・・・”な夢のあるSSでした。
     えっと書いてる本人がワルノリしまくりましてかなり長くなってしまいました(汗)
    もしや私って120%ギャグ向きなんだろうかと本気で悩みそうです。
     一応私がかつて見た夢の内容をベースに書いてますが、どこまでが夢ネタなのかは個人の想像にお任せします。(一応目覚めても少佐が乗ってて二度夢だったというオチでした)
     タイトル“Day And Night”は“昼も夜も”転じて“一日中”という意味です。
一日中愛されてみませんか?
     それと一つだけ懺悔します。
    本当は記憶喪失ネタが先なんですが、思いっきり筆が走ったためこっちが先になってしまいました。
    瀬菜さま、すいません!!
     こんなんでよければ幸いです。