I miss you.



 この広い基地の中でエルザム少佐と伍長の二人か、もしくは片方どちらかを見つけるのは至極簡単。
 なぜならシミュレータールームでも格納庫でも、大抵二人は一緒にいるのだから。


* * *


 その日、ここに配属されたばかりの新人整備員が機体調整に関する打ち合わせをするためにエルザムを探していたのだが、
「ど、どこにいるんだろう?」
 格納庫を一通りからシミュレータールームを抜けて食堂にも顔を出したのだが彼の姿がどこにもなくて通路の途中で途方に暮れていた。
 それを通りすがりの先輩が発見して声をかけ何をしているのかと尋ねた。
「それが・・・エルザム少佐を探しているんですが、どこにもいらっしゃらなくて」
「エルザム少佐? そういえばが資料室の鍵を探していたから・・・多分資料室じゃないか?」
「・・・どうしてそこでさんの名前が出てくるんですか?」
 疑問を素直に口にするとその先輩は苦笑混じりに教えてくれた。
「そりゃあ、二人が始終一緒にいるからだよ」


「エルザム少佐、ありました!!」
「どれ。ふむ・・・あぁ、これだ」
 一方その頃資料室では話中の二人が山積みにした古い資料の中から探し物をしていた。
 最近やっと長期のデータ保存にディスクを用いるようになったとはいえ、過去のとてつもなく古いデータは未だに紙にプリントされたものを綴じて保存されている。
 日保ちも悪いから早くディスク保存にできればいいのだが、何せここは常時人材不足。そんな暇などあるわけない。
 だからその中から何かを見つけようとするととんでもなく時間がかかってしまう。
「上の方にあって助かりました」
「全くだ。下のほうに埋まっていたら最後、今週中に見つけられるかどうか・・・」
 必要なファイルを分けて残りのファイルを棚に戻しながら二人ははぁっと安堵のため息。
 前に同じように探し物をしたときは他の職員やら通りすがりの不幸な整備員たちを総動員して丸二日かかった。
 それと比べれば今回はかなり幸運な方。
「残りは私が片付けておきますから、少佐は早く戻ってモーションプログラムの改善を再開してください」
「任せてしまっていいのか?」
 分厚いファイルの束を抱えてエルザムが問うとは手は休めぬまま笑顔で返した。
「ええ。この量ならすぐ終わりますから」
「そうか・・・ではよろしく頼む」
 そう言って彼は資料室を出て格納庫へと向かっていった。
 シュンっと扉が閉まる音を背に聞きながらは手際よく残りのファイルをせっせと棚に戻していく。そして全てのファイルを片付け終わった頃に先輩に聞いて例の新米整備員がそこにやってきた。
「すみません、エルザム少佐。機体整備の件でお話が・・・」
 しかし言うまでもなく彼は今ここにはいない。
 いるのはだけである。
「・・・あれ?」
「エルザム少佐ならトロンベの所よ?」
 資料棚に鍵をかけ終えたが振り返りながら言う。
「ちょうどすれ違いね」
 かくんと肩を落とす新任整備員に肩をすくめてみせる。
「バッドタイミング」
「えぇ。基地内を一通り回ってやっとここだと聞いてきたのに・・・」
 落胆する相手に同情の視線を送りつつは自分もこれから向かうところだから一緒に行こうと申し出た。
 そして『もしいなくてもどこにいるのか大抵は見当がつくから大丈夫よ』と付け加える。
 あまりにも自信たっぷりに言われて新任整備員が尋ねた。
さんって、エルザム少佐と付き合っているんですか?」
「・・・は?」
 一瞬きょとんとしたはややあって首を横に振る。
「違う違う、そんなんじゃない。ただのPTパイロットとその整備員の関係。それ以上でもそれ以下でもないわ」
 それにしてはよく一緒にいるそうじゃないですか、とつっこまれては苦笑を浮かべて見せた。
「それは純粋に自分の機体が大切だからでしょう? 知ってる? 少佐が呼んでる“トロンベ”って名前、昔大切にしていた馬の名前なの。だから“いつでもトロンベは最高の状態にしてやってくれ”って」
 それ故に細かい所まで念入りにメンテナンスを行い、気になったところはとことんチェックし問題があれば改善する。
 妥協など絶対にしない。
 それが彼の機体に対する最大限の愛情なのだ。
「私はそのお手伝いをしているだけ」
 それにだって彼と同じくらい自分の整備する機体に愛情を注ぐ。
 このこが無事帰って来ますように、パイロットを守ってくれますようにと祈りながら・・・。
「さ、油売ってないで行きましょう。少佐がまたどこかに行く前に、ね?」
 そう言っては先に立って通路を歩き出した。
 その後を新任整備員が慌てて追う。


 二人の関係はそんな微妙な距離の元で成り立つ。
 近いようで結構遠く、遠いようで意外と近い。
 PTパイロットとその整備員というだけでありながら、それとはどこか違う・・・・・・そんな関係。


* * *


 そんな折、が体調を崩して仕事を休んだ。
 数日前からなんだか時々体がだるいと思いつつ、あまり気にも止めないでトロンベのモーションプログラムの再入力を行なっていたのだが、その日仮眠室で目覚めから嫌な悪寒とふらつきに医務室に行くと『過労です』と一言。
 問答無用でベッドに押しこまれ、軍医によって職場に欠勤届が提出された。
「でも、今日はモーションプログラムの・・・」
「病人は大人しく寝てなさい」
 女医はそう言い、それでもまだしぶるに睡眠補助剤を処方した。
 しばらくして彼女の呟きが止み静かな寝息が聞こえ始めるとはぁとため息混じりに肩を落とす。
「全く・・・仕事の虫なんだから」
 の中で自身の健康など二の次。一番大切なのは自分の担当している機体なのだ。


 一方その頃、トロンベのコックピットでモーションプログラムの動作チェックをするために準備を進めていたエルザムは、準備を終えて後はが来るのを待つだけになったあたりで彼女が今日休みだと聞かされていた。
「過労? が?」
「まぁ無理ないですよ。このところ仮眠室暮らしたっだし、彼女機体整備に関してはとことんやるタイプですから」
「・・・・・・」
「ニ、三日休養を取って、それから復帰するそうです。それまでは別の奴が担当しますから」
 と代理が入って、予定通り機材を入れて動作チェックが行なわれたのだが・・・。
「動きに違和感はありませんか?・・・エルザム少佐?」
「あぁ、ああ。今のところはない。続けてくれ」
「わかりました」
「・・・・・・」
 チェック中もどこか上の空。
 結局その日のうちに終わることができず明日に持ち越しになった。
 そして次の日も、そのまた次の日も・・・相変わらず彼は集中力散漫で一日で終わる予定が二日三日と伸び続け、とうとう代理で入った整備員たちに、
「真面目にやってください」
 と呆れ半分に言われる始末。
 しかし当の本人は言われた直後は作業に集中するものの、少し経てば元通り、また意識がどこか別のところに行っている。


(・・・おかしい)
 内心エルザムは思う。
 このところどうも調子が出ない。
 何をやってもふと物思いにふけってしまう。
(なぜだ?)
 どうも落ちつかない。何かこう・・・足りない?
 愛機を最良の状態にしたいとは思うのだが、気づけばいつもの場所―――コックピットハッチのすぐわきの足場―――にいるはずのの気配を探している。
「調子はどう? おかしいところはない?」
 尋ねる彼女の声が聞こえたような気がしてはっと顔を上げることもある。
 足りないのはの存在。
 決して―――時々そう尋ねられるが―――恋人とかそういう関係ではないけれど、気付けばいつも隣にいた存在。
 整備に関して話をすることもあれば、それぞれ別の作業を黙々としている時もあった。
 PTパイロットとその整備員。ただの仕事仲間、職場の同僚。

 でも・・・・・・何となく、近くにいると安心できる存在。

 だから彼は心の中でそっと祈る。
《早く元気になって、戻ってきてくれ》
 多分トロンベも、そして自分もの復帰を心から待っているから。


* * *


 どこぞの人の言葉を借りれば“体力資本な整備員”の通り、は一週間も経たずに快復して格納庫に姿を見せた。
「ご迷惑をおかけしました。、本日より職場復帰します」
 主任や代理でトロンベの整備を行なってくれた同僚たちに挨拶を済ませ、普段より少し遅れて彼女はトロンベのハンガーに到着した。
「只今戻りました。エルザム少佐」
「あぁ、おかえり。もう大丈夫なのか?」
「えぇ、おかげさまで」
 お互いの所定の場所で交わされる久しぶりの会話。
「それにしても、聞きましたよ? モーションプログラムの動作確認まだ終わってないんですって?」
 確か一日あれば終わるはずなんですけど? と言われ、エルザムは肩をすくめてさらりと返す。
「君が確認してくれないと不安でね」
「あら・・・それは光栄と取っていいんでしょうね?」
 もおどけた感じで返し、手早くシステムを立ち上げる。
「さぁ、今日中に終わらせてしまいましょう。今日は終わるまで帰しませんからね?」
「のぞむところだ」
 そう答えながら彼は思う。
(あぁ、これだ・・・)
 欠けていた部分が埋まる瞬間。
 満ちる充足感。
 そして彼女もやっと戻ってきた自分の場所に内心喜んでいるのだった。


 そんなこんなで微妙な関係のまま、今日も変わらず二人は一緒に仕事をしている。
 この広い基地の中でエルザム少佐と伍長の二人か、もしくは片方どちらかを見つけるのは至極簡単。
 なぜならシミュレータールームでも格納庫でも、大抵二人は一緒にいるのだから。 





Fin.



   言い訳じみた独り言

     以上、桔梗さまの4321Hitリクでエルザムドリームでした。
    こんなものでよければお納め下さい。

     それにしても友情夢だか恋愛夢だか微妙・・・。
    私の中で本当に完璧恋愛要素のあるエルザム夢は無理なんでこのレベルが限界です。
    絶対カトライアさんには勝てない(涙)
     そのくせソフィアさんがいるはずなのにゼンガー夢は書けるんですよねぇ(苦笑)
    愛の差(爆)か?・・・いや、エルザムさんも好きだけど。

     余談ですが、私本文中は敬称略で書きますが普段は“エルザムお兄さん”です(ネタ帳表記とか)
    時々“少佐”付きだったりしますが愛しの方とダブるのであまり使いません。
     他のキャラだと“隊長”とか“ボス”とか。
    基本的に呼び捨てにできないのは小心者だから(笑)