貴方だけ 民に紹介する意味での結婚の儀は日が暮れる頃に終わった。 ドレスからやや簡素な服に着替えたは軽い食事の後に湯浴みをさせられて薄い生地の服を着せられた。 下手をするとそのまま肌が透けてしまいそうなその服に顔を赤らめると、 「さぁ、神殿に参りましょう」 付きの侍女が彼女の手を取った。 「神殿に? こんな時間にですか?」 外は夕闇の中に沈み、微かに虫の声すら聞こえる。 こんな時間に神殿に赴いていったい何の用があるというのだろうか。 「花嫁の最初の務めでございます」 「花嫁の?・・・あ」 侍女の言わんとしていることを悟っては青ざめた。 「でも・・・なんで、神殿で?」 「バルマリィの王族は婚礼の儀の夜に神に祝福されながら初めの契りを交わすのです」 「・・・」 はいやいやと首を振って後ずさる。 「いきたくない」 「様」 少きつめに名を呼んでみるが怯えた彼女はいやいやと首を振るばかりでその場を動こうとしない。 はぁとため息をついて侍女は泣く子をなだめる母親のようにの髪をすいた。何度も何度も辛抱強くそうして落ち着いた頃に語りかけた。 「良く聞いてくださいませ。誰でも最初は不安になるものですが、あの方は怖いことも痛いこともいたしません。そのままの貴女様でいらっしゃれば大丈夫です」 「でも・・・」 迷いの正体は初めからわかっている。 愛する人を裏切ってしまうという罪悪感と、愛していない男のものになってしまう悲しさ。 侍女もそれをわかっていてあえてそれを口にしない。それが単にこれから体験することに対する恐怖と戸惑いにしかすぎないと暗示をかけるように何度も繰り返す。 「大丈夫です。怖がらないで」 「・・・」 諦めたのかがこくりと頷いて自分から部屋を出た。 「では参りますよ?」 「・・・」 神殿までの間、は一言も話そうとせず、代わりに侍女があちこち指差して説明していた。 人気のない通路を歩いていく。 聞こえるのは二人分の足音との服の衣擦れの音だけ。 天には下弦の天体。それは彼女の真の表情を必死に隠そうと更にその身から光を彼女に投げかけていた。 * * * 神殿ではまだ多くの者たちが準備に右往左往していた。 侍女に促されて部屋の一番奥、祭壇に腰掛けたはぼんやりとその様子を見ている。 「すみません、そこよろしいですか?」 一人の女が上等なビロードを抱えてに声をかけた。 「?」 「そこにこれを敷きたいのですが・・・」 頷いて脇にどけると女はうやうやしく一礼して祭壇にそれをかけた。 「はい、どうぞ。もう結構です」 女が再びせわしなく走っていくのを視界の端に留めながらは再び祭壇に腰掛ける。 相当なものらしくビロードの手触りは心地よく、無意識のうちに指で何度もなぞってその感触を楽しんだ。 それからしばらくしてようやく準備が整ったのか作業に追われていた者たちがぱらぱらと退室し始めた。 そのうちに奥の扉が開かれて簡素な、しかし王族としての気品はそのままの霊帝が静かに神殿に入ってきた。 退出する者たちがうやうやしく頭を垂れる。 そうして半ばまで来たところでの姿を認めた霊帝は微かに目を細めた。 「それでは。霊帝様と奥方様にバルマリィの神々の加護があらんことを」 最後まで入り口に控えていた神官が深く一礼すると松明に何やら粉末を投げ入れた。 粉末を投げ込まれた松明の炎がいっそう激しく燃え上がった。アメジストを思わせる妖しい紫の炎。続いて室内を微かに甘い香りが広がっていく。 「・・・美しいよ。神話の女神もそなたの前では霞んでしまう」 「・・・ぁ」 鼻をくすぐった香りを吸い込んだの顔から感情が消える。瞳が焦点を失ってぼんやりと霊帝を見上げたまま動きを止めた。 「そう・・・体の力を抜いて」 すると言葉の通りの体から力が抜けて、軽く促されただけであっさりと祭壇にその身を横たえた。 「・・・さ、ま・・・んぅ」 かすんでいく意識。唇だけが最後の抵抗と言葉を紡ぐ。しかしそれもすぐに重ねられた唇の中に飲み込まれてしまった。 後頭部に手を回して深く深く口付ける。 衣擦れの音を遠くに聞きながらヒロインの瞳から雫がつーっと頬を滑り落ちる。 抵抗の意思は・・・ない。いや、今の彼女に意思というものはない。 「・・・」 首筋に濡れた感触。そこから鎖骨のあたりを行ったり来たり彷徨うもの。外気に触れての体は一瞬びくりとこわばったが、それもすぐに弛緩して瞳は完全に霞がかかっていた。 ただただ人形のように霊帝の行為に身をゆだねるだけ。そしてその瞳からは最後の抵抗か止めどなく涙が溢れ続けいる。 「・・・思考を鈍らせてもなお涙する、か」 激しい口付けの合間に漏れた呟きは、微かに悲しみの含まれたものだった。 「しかし、それでも・・・」 そっと鎖骨を撫でる彼の手は冷たいのに香りのせいか触れたところから体は熱を帯び、彼女は無意識のうちにはぁっと熱いため息を口をついて洩らした。 それでも手に入れたいものが今、この手の中にある。 この身の下で頬を染めて熱いため息を吐く美しい女性。誰にも渡したくない自分だけの宝玉。 「お前の全てが今すぐ欲しい。その肌も、瞳も、吐息さえ・・・」 うっとりとその姿に見入る霊帝。そして右手を彼女の背に回し上体を起こし、反動で薄く開いた唇を空いた手の指先で形をなぞった。 ほんのりピンクのルージュの引かれた唇は熱のためか先ほどまでの口付けのためかしっとり濡れていた。惹かれるまま顔を近づけ、再び重なる互いの唇。 息が苦しくなる直前までむさぼられ、離されて息をつこうと口を開いたところを狙って今度は深く・・・。 すでに炎からの香りは室内を満たし、は完全にその虜と化していた。体の熱を上げる甘い香り、揺れる炎さえもそれを増長するかのように彼女の理性を最後の欠片まで飲み込もうとしている。 「なんか、へん。あつ・・・い」 その呟きに霊帝は満足そうに微笑した。冷気を求めて腕の中で彼女の体がうねる。それによってはだけていた衣が肩からずり落ち、陶器のような透き通った肌が松明の明かりの中に浮かび上がる。 右手で彼女の体を支えたまま、高められた熱のためかほんのり上気した肌に触れ愛しそうに撫でる霊帝。 「さぁ、。私と共に神の祝福を・・・」 触れていた手を衣に伸ばし、そのまま彼女の豊かな胸元までを露にしようとした、その時。 ばたんっ! 音を立てて祭壇の扉が開かれた。 「何事だ!」 霊帝が鋭い誰何の声を上げる。 「はぁ・・・はぁはぁ。れいて・・・い、さま」 息を切らせて立っていたのは途中の兵士をなぎ倒してきたらしくあちこちボロボロのラオデキヤ。 「彼女は、は余の伴侶。たとえ・・・霊帝様の命といえども、それは・・・それだけは、聞けぬ!!」 口調は真剣そのもので、その為なら全てを捨てる決心の固まった目をしていた。 扉が開いたことによって香りが薄れ、が我に返った。 「ラオデキヤ、様?・・・ラオデキヤ様!?」 祭壇を飛び降りて駆け寄る。 「・・・っ」 ラオデキヤは抱きついてきた彼女の体をしっかり受け止め抱きしめ返した。 「もう離さぬ。絶対に・・・離しはしない」 「はい・・・ずっとそばにいます。だから、離さないで」 見詰め合う二人はどちらかともなく唇を合わせた。 今までの時間を埋めるように。 お互いの気持ちを確かめ合うために。 その様子を霊帝は苦い表情で見ていた。 名残惜しげに唇を離した二人が再び抱き合い、そして体を離してから彼はやっと口を開いた。 「我では駄目か」 苦笑と自嘲の入り混じった声にが彼を見た。 一瞬だけ辛そうな表情をして、しかしきっぱりとは言った。 「ラオデキヤ様以外なら私、舌を噛みます」 つまり彼以外のものにはならないということ。 「そんなことはさせぬ。誰にも汝を渡しはしない」 を抱き寄せてラオデキヤは彼女に誓った。 それから数日してラオデキヤとはささやかではあるが式を挙げ、晴れて夫婦になれたという。 Fin. 言い訳じみた独り言 長らくお待たせしました〜〜。(その2/滅) 桔梗さまのリクで“士帥がお相手の夢のあるSS(ちょいアダルト)”のアダルト版でした。 えぇ、本当に長々々々々々々々とお待たせしてしまって本当にすいませんでした。m(__)m 男女の恋愛ものなんて一生書かないと思っていた人間なんでこれが限界です〜〜。 いいのか? これで?? というか、マジで限界です。(大汗) 桔梗さま、こんなんですが・・・これで勘弁してください(平謝) |