貴方だけ


 民に紹介する意味での結婚の儀は日が暮れる頃に終わった。
 ドレスからやや簡素な服に着替えたは軽い食事の後に湯浴みをさせられて薄い生地の服を着せられた。
 下手をするとそのまま肌が透けてしまいそうなその服に顔を赤らめると、
「さぁ、お部屋に参りましょう」
 付きの侍女が彼女の手を取った。
「霊帝様は少し遅れておいでになりますが、何事も早めにですよ」
「遅れて・・・?」
 通された部屋のベッドがあまりにも大きく豪華なのを見てはその言葉の意味を悟った。
「あ・・・」
「さぁ、こちらです。大丈夫ですよ。怖がることは何もございません」
 青ざめる彼女を侍女が優しく宥める。
 それではと退室しようとする侍女の服をは思わず掴んだ。
「いや。お願いだから一人にしないで」
「もうじき霊帝様がいらっしゃいますよ」
「お願い。ここにいて」
 侍女は困った表情をして怯える彼女を見た。
「良く聞いてくださいませ。誰でも最初は不安になるものですが、あの方は怖いことも痛いこともいたしません。そのままの貴女様でいらっしゃれば大丈夫です」
 泣く子を母親が眺めるようにその髪をすいて侍女はに語りかけた。
「心配はございません」
「・・・・・・」
 彼女の髪をもうひと撫でしてその肩に同じく薄手の上掛けを羽織らせて、侍女は部屋を出て行ってしまった。


 しばらくしての耳が誰かの足音をとらえた。
 カツンカツンっと規則正しいそれは部屋の前で止まる。
「・・・・・・」
 は顔をシーツに押し付けた。入ってくる男の姿を正直見たくなかった。
、眠ってしまったのか?」
 優しく紡がれる男の声。大きな手で髪をそっとすかれても彼女は反応を返そうとはしなかった。
 反応を返すつもりはない・・・ないのに。
「・・・っ」
 何度も何度も髪をすかれるうちには無意識のうちに嗚咽を漏らしていた。
 かつて自分を愛し自分も心から愛していた人にそうされたことを思い出してしまったのだった。
「愛している、
 霊帝の声と彼の声が重なった。
「っ!」
 は涙に濡れた顔を上げて相手を見た。
「泣くことはない。怖がることもない」
 霊帝はそう言ってベッドの端に腰掛けた。ぎしっとスプリングが音を立てて、それを遠くに聞きながら彼女は濡れた目でじっと霊帝を見つめる。
「泣くな・・・」
 指先でそっと涙を拭って目じりに口付ける。
「愛している、
 再び囁いて霊帝の手が彼女の服にかけられた。
 彼女はぼんやりとそれを見ているだけ。
 衣擦れの音と共に羽織っていた上掛けが床に落ちた。
 その時。

ばたんっ

 扉が大音響と共に開かれて誰かが部屋に入ってきた。
「何事だ!」
 霊帝が鋭い誰何の声を上げる。
 が暗がりの中手探りで手近のテーブルの上のランプをつけた。
 頼りない明かりの中に浮かび上がる相手の姿。
「っ・・・」
 思わず彼女は両手を口に当てた。
「れいて・・・い、さま」
 肩で大きく息をつき、途中の衛兵をなぎ倒してきたのか所々服が破けている。
「彼女は、は余の伴侶。たとえ・・・霊帝様の命といえども、それは・・・それだけは、聞けぬ!!」
 口調は真剣そのもので、その為なら全てを捨てる決心の固まった目をしていた。
「ラオデキヤ様!」
 慣れない裾の長い服に足をもつれさせながらは彼の元に駆け寄った。
・・・っ」
 ラオデキヤは抱きついてきた彼女の体をしっかり受け止め抱きしめ返した。
「もう離さぬ。絶対に・・・離しはしない」
「はい・・・ずっとそばにいます。だから、離さないで」
 見詰め合う二人はどちらかともなく唇を合わせた。
 今までの時間を埋めるように。
 お互いの気持ちを確かめ合うために。
 その様子を霊帝は苦い表情で見ていた。
 名残惜しげに唇を離した二人が再び抱き合い、そして体を離してから彼はやっと口を開いた。
「我では駄目か」
 苦笑と自嘲の入り混じった声にが彼を見た。
 一瞬だけ辛そうな表情をして、しかしきっぱりとは言った。
「ラオデキヤ様以外なら私、舌を噛みます」
 つまり彼以外のものにはならないということ。
「そんなことはさせぬ。誰にも汝を渡しはしない」
 を抱き寄せてラオデキヤは彼女に誓った。


 それから数日してラオデキヤとはささやかではあるが式を挙げ、晴れて夫婦になれたという。

Fin.




言い訳じみた独り言
  長らくお待たせしました〜〜。
 桔梗さまのリクで“士帥がお相手の夢のあるSS(ちょいアダルト)”でした。
 えぇ、本当に長々とお待たせしてしまってすいません。
  何だか色々怪我したり体調崩したりと(微妙に言い訳/滅)本気で猫の手も借りたかった日々を超えてやっと完成vv
 と言いたいところですが、実はこれがいただいたリクの2/3で残り1/3はまだ執筆中(汗)
  桔梗さま、もうしばらくお待ちくださいませ m(_)m
 なお、内容がアダルトっぽいのでリンクは隠しです。
 アダルトおっけ〜でリンク場所知りたい方は管理人までお尋ねください。