第一級戦闘態勢! どんなに言い聞かせてもプチは首を横に振り続ける。 「やだっ!」 「って言ってもなぁ?」 「なぁ?」 困った表情を浮かべて顔を見合わせたのはマサキとリュウセイ。 「ほら、きっと心配してるぜ?」 「だから帰ろう?」 「ぷちかえんない!」 プチはここに来てからずっとこんな感じ。 「ぜぇ〜ったいにかえんないからねっ」 そんな様子に二人は同時に深いため息をついた。 * * * ことの始まりはその日の朝。 例によって研究大詰めで朝帰りしたユーゼスにプチの怒りが爆発した。 「ゆーぜすっ!」 「わかったわかった…」 「ぜんぜんわかってない!」 眠気が臨界点を突破しているユーゼスは空返事を返すのみ。朦朧とした意識で何とか返事するものの、 ユーゼス本人は何に対してリアクションを返しているのかはすでにわかっていない。 「おそくなるんだったら、ちゃんとおでんわするっていったのにぃ」 「忙しすぎてそんな時間がなかったんだ」 「だって! やくそくしたのゆーぜすだよ」 帰りが遅くなるときは事前に連絡すると言ったのはユーゼスだった。そうしたら近所のマサキかリュウイが迎えに来て一晩厄介になる。できるだけプチに寂しい思いをさせなようにとそうしていたのだが、その日に限ってあまりの忙しさに連絡するのをすっかり忘れていたため、プチは一晩を一人で過ごすことになったのだった。 「でんわないんだったら、すぐかえってくるってことだよね」 と自分に言い聞かせ、お気に入りのウサギさん枕を抱えて一晩。プチにとって長い長い夜。 「ゆーぜす…はやくかえってこないかな」 なのにユーゼスは一晩、帰ってこなかったのだ。 そして空返事のユーゼス。 眠気臨界点突破のユーゼスと同様、プチの感情も臨界点を突破したのだ。 「いーもん。ゆーぜすがかってにするんだったらぷちもかってにするもん!」 そしてそのとばっちりを食らったのがお隣のリュウセイで、さらにそのとばっちりを食らったのがおむかえのマサキ。 「りゅー」 「あ、プチ。どうしたんだ?」 「おせわになります」 ぺこりっ 「はぁ!?」 そしてプチの愚痴を延々一時間ほど聞かされた後、自分一人ではどうにもなりそうにない…というかとばっちりを食らうなら一人より二人ということで何も知らないおむかえさんを呼び、今は二人でこのお子様を前にどうしたものかと思案にくれている。 「それで、ユーゼスは?」 「ねてる。あけがたまでやってたんだってっ」 つんっと唇を尖らせてプチは答えた。 どうやらこの様子ではユーゼスはプチが家出(?)したことにまだ気づいていなさそう。 「一応、電話しとくか」 「…そうだな」 というわけでゴッツォ家に電話したリュウセイ。 「もしもし…」 掛けた電話はコール三回で繋がった。 「あ、隣のりゅうせ…」 「そこか!」 がちゃんっ 「あ…」 ばたばた 「邪魔する。プチ、帰るぞ」 そういってブランシュタイン邸に乱入してきたユーゼスは、普段の彼らしからぬ慌てっぷりで家の主の許可も聞かぬままダイニングに駆け込んだ。 「プチっ」 「あ、迎えに来たみてーだな。ほら、プチ」 一緒にソファーに座っていたマサキがプチを抱き上げた。 「今度からはちゃんと連絡してやれよ」 「あぁ」 珍しく素直に頷いたユーゼスがプチを受け取ろうと手を伸ばしたのだったが。 「やだっ」 ぺちんっとその手を叩いてプチはマサキの腕から床に下りる。 「かえんないからねっ」 てとてとと歩いていってリュウセイのズボンをぎゅっと握り締める。 「ぜぇったいにかえんないもん」 「プチ、わがままを言うな」 「やくそくやぶるゆーぜすのほうがわるい!」 「それについては謝る。今度は先に連絡する。だから…」 「それ、なんかいいった?」 びしぃっとプチはユーゼスを指差した。 「うっ…」 言葉に詰まるユーゼス。 「もーだまされないからね。きょうというきょうはぜーったいにゆるしてあげない!!」 完全にキレた様子のプチとなす術もなくおろおろするユーゼス。 そしてまるで恋人同士の痴話げんかのような状態に半ば呆れ顔のリュウセイとマサキ。 (こいつって尻に敷かれるタイプだったんだ) (なんか意外、だな) そんな視線だけの会話をして、リュウセイが沈黙を破ってユーゼスに申し出た。 「なあ、今日はプチおれのとこで預るよ」 「しかし…」 「どうせ今日はライの奴帰ってこねぇし」 「あ、おれも付き合うぜ。おれんとこもシュウの野郎今夜は泊りだって言ってたから」 マサキの言葉も手伝って、ユーゼスはしぶしぶ帰っていった。 「さてと…」 そして二人の長い長い一日が幕を上げたのだった。 * * * 作戦目的:プチをなだめて家に帰るよう説得する。 作戦期間:明日の朝、ユーゼスが迎えに来る8時まで・・・あと22時間。 * * * 只今午前12時少し前。 3人分の昼食を作りながらリュウセイは早くも説得を試みる。 「なぁ、プチだって約束破ることあるだろ? 次はちゃんと連絡するって言ってるし、大目に見てやったら?」 「だぁめ! りゅーだってらいがやくそくやぶったらおこるでしょ?」 プチは相変わらずご機嫌斜め。 「う〜ん…おれんとこの場合、破るのっておれの方なんだけどライはそんなに怒んないぜ?」 よっ、と気合を入れてフライ返しを振るいながらリュウセイは言った。 「俺んとこなんかシュウの奴すんげー忙しいから予定なんて常に未定だし、どっかでかけてても急に呼び出し入ってそのまま研究所に行っちまう事だってあるんだぜ。でもだからって全部あいつが悪いわけじゃねぇし、休みだって簡単に取れないのに無理して取ってどっか連れてってくれるし…。だから俺も少しは譲歩してあいつに合わせてやってるんだ」 マサキはそう言って少し照れくさそうに笑った。 「ユーゼスだってプチのために無理して帰ってきてんだと思う。だからプチもちょっとは協力してやってもいいんじゃないか?」 ん〜と考え込んでプチはやっぱりだめと首を振った。 「こーいうのはちゃんといっとかないとだめだよ」 プチはテーブルをバンバン叩いて力説する。 「ゆーぜすみたいにてんじょーてんがゆいがどくそんなかんがえかたしてるひとは、いっかいあまやかすととことんつけあがるもん」 さらりととんでもないことを言ってプチは肩をすくめた。 「あーゆうのって、なんかてきとーにあたえたらそれできげんなおすっておもってるんだよね」 その一言に過剰に反応した者がいた。 「そうだよなっ」 「ま、マサキ!?」 マサキはプチの手をがしっと掴んで何度も頷いた。 「やっぱプチもそう思うかっ。実は俺もそうじゃないかって思ってたんだ!」 (おいおい、さっきと言ってることが違うじゃねぇか…) 内心リュウセイが突っ込みを入れる中、マサキとプチはキラキラと瞳を輝かせて見つめあっている。 「やっぱあーゆう性格の奴らってみんなそう思ってんだよな」 「そうそう! だからあーやってあまやかすとつけあがるのっ」 すでに当初の目的を忘れてしっかりプチと意気投合してしまったマサキ。 一方リュウセイは出来上がったお好み焼きを皿に盛り、トレーに乗せて運んできた。 「そうじゃなくて、少しは譲歩し合って生活しようぜ。好きだから一緒に暮らしてることだし」 「ちがうもん!」 とプチ反論。 「ゆーぜすはぷちのぱぱだからいっしょにくらしてるだけだよ!!」 「お、俺だって…その、あいつとほっとくとそのまま餓死しそうだし。別に好きで一緒に暮らしてるわけじゃねぇよ」 と言われても、耳まで真っ赤のその様子でどう信じろというのか。 「りゅうはいいよ。らいにあいされてるもん」 「そうそう」 うんうんと頷く二人。 話が妙な方向を向き始めた。 「…っと」 とりあえず飲み物まで出してリュウセイも席に着くことにした。 「お好み焼き。料理とかあんま上手くないんだけど…」 「あ、いただきます」 「ごちそーさん。でもライは失敗しても不味いとか言わねえんだろ?」 形に問題はあるものの味はまあまあのそれをありがたくいただきながらマサキは言う。 「そうだけど…でもそれならシラカワ博士だってマサキの作ったもの絶対不味いって言わないだろ?」 「あれは何でもいいんだよ。食べられれば」 本人が聞いたら“何を言うんです。心外な”などと言いそう。 「何出しても“貴方の作ったものが不味いわけないじゃないですか”って美味そうに食うんだぜ? 絶対味覚おかしいって、あいつ」 それは惚れた弱みというやつ−−−他に自身があまり作らないからというのもあるにしろ−−−なのだろうが、実際そうなのだから仕方がない。 まあ、マサキもシュウの好みを把握して料理を出しているあたりおあいこなのだろう。 「ともかく、いい加減機嫌直せって。ユーゼス今日はきっと全然研究手についてないって」 確かにそれはありうる。 何たって相手は愛しの奥方との愛5%−−−と言っても奥方本人は何もしていない−−−の結晶なのだから。 実験なんか行った日には爆発事故の一つや二つ起こっても何ら不思議ではない。 研究所の職員にひどく同情しつつリュウセイは空になった皿を洗ってしまう。 「おれだって最初は何にもできなくてライに迷惑かけてばっかだったけど、少しずつ家事を覚えて今は何とかやってる。プチも掃除とか洗濯とかはまだ無理かもしれないけど、ちょっとしたこと手伝ってやった らきっとユーゼス喜ぶぜ。それに別に何もしなくても帰ってきたときに元気一杯“おかえり”って言ってやるだけでもきっと喜ぶと思うな」 プチ一人は嫌だろ? と聞かれてプチは大きく頷いた。 「やだっ。だって、くらいししずかだし…こわいもん」 そもそも今回の怒りの原因の多くがそれなのだ。 「だろ? ユーゼスだって誰もいない家に帰るのってずんごく嫌だと思わねぇ?」 「う〜〜」 唸って黙り込むプチ。 おそらくその様子を想像しているのだろう。 「う〜…」 「な、仲直りしよう?」 ぽた…ぽたぽたっ 雫が床に落ちた。 「うぅ…ゆーぜす」 「プチ?」 「う…うぅ…」 ひっくひっくとしゃっくりをあげ、 「ふえぇぇぇん!!」 プチが突然泣き出した。 「ぷ、プチ!?」 慌てるマサキとリュウセイ。 「おい、どうしたんだ?」 「なんでここで泣くんだよ」 全くわけわからない二人は成す術もなくおろおろするばかり。 只今午後2時過ぎ。…作戦終了時間まであと約18時間。 事態は急展開を迎えた。 「で、どーする? リュウセイ」 「おれに聞くなよ。マサキこそどーすんだよ?」 迷子の迷子の子猫ちゃんも思わず泣き止む勢いで泣き続けるプチ。 「ふええぇぇぇん!!」 子育ての経験などあるわけのない二人である。本気で“わんわんわわ〜ん”と犬のおまわりさんの如く言い出しそうな雰囲気になった時。 ぴんぽ〜ん 「あ、誰か来た」 「近所の人じゃねぇの? うるさいって」 耳を手で押さえながらそんな会話を交わしてリュウセイが玄関に様子見ついでに退避。 「早く戻ってこいよ〜」 というマサキの切実な叫びを聞きながら、 「は〜い、今開けます」 ドアを開けた。 「おじゃましますよ。うちのマサキがお世話になっているようで」 「あ…」 戸の向こうに立っていたのはマサキの同居(同棲)人シュウ=シラカワその人だった。 「…騒がしいですね」 「あ、今プチが来てるんだけど突然泣き出して」 「そういうことですか、では失礼しますよ」 言ってシュウはリュウセイの脇を抜けてリビングへ。 「おやおや、そんなところで耳を押さえて何をしているんでしょうね? マサキ」 突然した意外な人物の声マサキはぎょっとして思わず手を耳から離した。 「しゅ…シュウ!? てめぇなんでここにいんだよ」 「あなたがここにいると聞きましてね。せっかく早く帰ってきたというのに」 (早くって…早すぎじゃねぇか。それに今日は泊まりだとか言ってたような) その背後でリュウセイが内心ツッコミを入れていたが、やはり口までは上らなかったようだ。 ちなみに只今午後4時少し前。…作戦終了まであと約16時間。 「うぅ〜〜っ」 プチはまだ泣き止まない。 「煩いですね」 さすがのシュウもこれには参ったらしくため息と共にプチを抱き上げた。 「!!?」 突然のしかも予想すらしていなかった行動にリュウセイとマサキは目を大きく見開いた。 「はいはい、おとなしくしなさい」 そう言ってなんとあのシュウがプチをあやしだしたのだ。 はっきり言って異様な光景以外の何者でもない。 リュウセイなど口をあんぐり開けて固まっている。 「近所迷惑でしょう?」 「うぅ…てんじょーてんがゆいがどくそんおとこのくせにぃ」 ぴきっ シュウのこめかみが一瞬引きつった。 「目上の者の言うことは聞くものですよ」 「どーせまさきがいればほかはどーでもいいくせにぃ」 ぴきぴきっ まだこらえているあたりかなり奇跡に近い。 やはり子供相手に怒鳴るのはさすがに大人気ないと思ったのだろう。 「なかなか口の減らないお子様ですね」 「……」 無言のままマサキが後ずさりを始めた。 笑顔でプチに話しかけるシュウの目は完全に笑っていなかったのだ。 そしてそれにプチがトドメを刺す。 「しつこいおとこはきらわれるんだよー」 ぶちっ シュウ=シラカワこれにはさすがに堪忍袋の緒が切れた。 「ほぉ…そういうこと言う口はこれですか?」 びろ〜〜んっ 「っ! ひはい〜〜(いたい〜〜)」 両手で頬を掴んで容赦なく左右に引っ張る。 「ほらほら、堪忍袋とは切れるためにあることを思い知りなさい」 「ひ〜は〜い〜〜」 じたばたじたばた… 「フフフッ」 背後に紫色のオーラ全開のこの男は黒微笑を浮かべながら無抵抗−−−もとい抵抗できないプチを思うさまいたぶっている。 「ふへ〜…ひゅーへふぅ」 プチが涙目になったあたりで我に返ったマサキが慌てて止めに入った。 「シュウ! 子供相手にムキんなるなよ」 「貴方は黙っていなさい」 「そういうこと言うんだったら俺出てくからな」 ぴたっ シュウの手が止まった。 ぱっ…べちっ 突然手を離されてプチが床に落下する。 「いた〜〜っ」 ぶつけた顔を押さえて呻くプチの横でシラカワさんちの痴話喧嘩が勃発する。 「何を言い出すんですか、マサキ」 「へーへー。どうせ俺は黙ってろなんだろ? 鬱陶しいんだったら始めからそう言えばいいじゃんか」 「そんなことは言っていないでしょう。私が愛しているのは世界でただ一人貴方だけですよ」 「そーやって適当にあしらっとけば言うこと聞くと思ったら大間違いだぜ」 「そんなこと…何を怒っているのですか、マサキ」 そうしてだんだんシュウが言葉に詰まりだしなんとも情けない表情になるまで追い詰めた後、マサキは一言言ってその痴話喧嘩を締めくくった。 「ま、ことと次第によっちゃ今すぐにとはいわねぇけど?」 「! 何です? マサキ」 シュウの表情が変わった。その変化にマサキが微かに苦笑する。 ふとリュウセイは思った。 (もしかして適当にあしらってるのってマサキのほうじゃねぇのか?) 見事にアメムチでシュウをあしらうマサキに密かに“こいつすげぇ”なんて思うリュウセイ本人も実は旦那を仕草一つで手玉に取っていたりして…。ただリュウセイの場合それが無意識に現れているあたりアメムチの使い方はマサキより上なのではなかろうか。 そして一番救われていないのは実は双方の旦那たちだったりする。 ちなみに余談だがゴッツォさんちも似たようなものである。 ちらりとリュウセイは時計に視線を走らせた。 (午後6時…) 作戦終了時間まであと約14時間。 ブランシュタイン邸の第一級戦闘態勢はまだまだ続きそうだ。 Fin. 言い訳じみた独り言 以上、疾風瀬菜さまのリクエストで“リュウセイ&マサキのプチスケンおもり大作戦!”でした。 相変わらず関係ない方が出張ってますが…気にしないでください。お願いします、ホントに。 実はこの話、出来上がったのが明け方近くだったりします。 現在の時点でお外はまだ暗いです。これから寝て、カービィ見て(爆)からアップしにお出かけです。 久しぶりに凄まじく熱中して書けました。その分勢いだけが先行してて意味不明かもしれません(汗) それ以前にユーゼスのとこまで送り届けてないし(汗々) とにもかくにも、瀬菜さまリクエストありがとうございました。 |