「ねえねえゆーぜすぅ」
「なんだ? プチ」
「ぷちのままって"いんぐらむ"だよねぇ?」
「そうだが…それがどうかしたか?」
「でもさぁ、ままって"おんなのひと"のことじゃないの?」
「……」
「ねえねえゆーぜす、なんで? なんでぷちのままは"おんなのひと"じゃないの?」


なんかいきいてもゆーぜすはおしえてくれなかった。

なんでぷちのままは"おんなのひと"じゃないの?

それからぷちずーっとかんがえた。

そんできづいたの。

なんだ、かんたんだよ!

ぷちがままのこと"おんなのひと"にしてあげればいいんだ!!

ぷちってあったまいー♪


* * *


「ゆーぜすぅ。きょう、けんきゅうじょにいっしょにいってもいい?」
「なんだ? 突然。何か新しいものでも思いついたのか?」
「うんっ」
 ユーゼスは快く承諾してくれた。
 なんたってプチスケンはすでに研究所のアイドルと化しているのだから。
(よおっし、これでだいいちだんかいはおっけー☆)
 心の中でガッツポーズをとるプチにどうやらユーゼスは全く気がつかなかった様子。
 こうしてプチスケンを中心に発達を始めた革命という名の台風は、徐々に勢力を拡大しつつ目標に向かって動き出したのだった。


「これと…これと、そんでこれも!」
「今日はやけに張り切っているな」
 とユーゼスが感心するほどプチは熱心に薬品を選んでいる。
 いつものようにプチの使うテーブルには恐ろしく複雑な分子構造式のかかれたスケッチブック。
 そして助手は変わらず例の女性研究員。
「ねぇねぇ、そこのがすばーなーつかってもいい?」
 ビーカー片手にプチが聞く。
「その奥のものならかまわない…ただし取り扱いには十分注意しろ」
「は〜い」
 元気よく手をあげてプチは返事すると、
「びーかーもういっこかして☆」
 と助手兼お目付け役の女性研究員にお願いして自身はさっそく実験開始。
 熟練研究員も真っ青な慣れた手つきで次々と薬品を計り(しかも正確に!だ)手際よくビーカーや試験管に入れていく。
 あっという間にプチの前はそれらによって埋め尽くされる。しかしプチはその手を止めず今度は粉末薬品の棚に近寄った。
「これと…あ、それ〜」
 手が届かない上の棚のものは助手が取ってとうとう机の上は薬品で埋まってしまった、
「ゆ〜ぜすぅ、もうちょっとすぺーすちょーだい」
「…そこを片づければ空くだろう?」
「えぇ?…めんどくさい」
「……」
 変なところをユーゼスに似てしまったらしい。本当に面倒そうにプチはしぶしぶながら机の上を片づけ始めた。
 散乱していたビーカーと試験管を大きさ別に集め、使い終わったものは流しに持っていく。その他ガラス棒なども一まとめにしてしまうと、驚いたことに机の上に三分の一ほど空きスペースが生まれた。
「わぁすっごい☆みちがえる〜」
「……」
 その一言にユーゼスは思いっきり苦い表情をした。
 かつて生活能力の欠片も持ち合わせていなかった自分の、とんでもないことになっていた部屋を一日かけて掃除したイングラムに発した第一声と同じだったからだ。
(変なところを受け継いでしまったようだな…今度は気を付けよう)
 イングラムが聞いたら、
《あれをこれ以上増やす気か!!》
 と激怒しそうなことを心の中で密かに思いながらユーゼスは自分の実験のほうを続ける。
 一方プチは手早く粉末薬品も計り終えて本格的に調合に取り掛かり出した。


* * *


 今まで人生生きてきて恐ろしいと思ったことはあまりない。
 強いて言えばかつてあるチームの教官を務めていたときに部下だった男の死神が避けていくような錯覚を覚える強運くらいなものだ。
「ふぅ…」
 がしかし今、彼には人生最大の恐ろしいことがある。
 いや“こと”というよりは者というのが正しい。
 しかしこの男に“恐ろしい者”と認識させる人物が存在するとは……。
 世も末…いやいや、どの世にもそういう存在は多かれ少なかれあるものだ。
「ふぅ…」
 深くため息をついて彼、イングラムは目の前の書類に視線を落とした。
 これが終わればすぐにでも帰宅できる。
 しかしそれは同時にユーゼスのいるあの家に帰ることを意味する。
「ふぅ…」
 三度目のため息を吐いて彼はペンを置いてしまった。
 別にユーゼスがいるから帰りたくないわけではない。
(奴なら何かされそうになっても張り倒せばいい)
 そう思って張り倒そうとして
逆に押し倒されたことも一度や二度ではないが、この場合後でいくらでも報復できるからそれでいい。
 問題は最近家族に加わった
小さいほうだ。
 見た目も中身もお子様だがそこが実は大問題。
 今まで人生生きてきて、果たして子供と接した時間はいかほどだったか。
(…数えるほどもないな)
 というよりもまったく記憶にない。
 つまるところ(一応は)平和(みたい)な生活の乱入者かつ
二人の愛の結晶らしいプチスケンをどう扱っていいものか悩んでいるのだ。
 別に無邪気にじゃれついてくる分にはかまわない。むしろそういう体験は新鮮で笑みすらこぼしてしまいそうだ。
 が、しかしだ。そのじゃれついてくるのが
自分そっくりとなれば話は別。
(まぁ、子供がいてもおかしくない年ではあるが…)
 とは思うものの、いくら二人の愛の結晶といえその二人がどっちも男というのは何か違う気がする。
 ユーゼスもおもいっきり私利私欲のために自分の研究を使うあたりさすがというかなんというか。
 もう感心するしかない。
「少佐…イングラム少佐」
 と声をかけられて我に返る。
 見ると机の反対側に部下がいた。
「仕事中失礼します。この書類にサインをお願いしたいのですが」
 彼は言って紙を差し出した。
 一通り目を通してイングラムは眉をひそめた。
「特別休暇? この時期にか?」
「はぁ…いろいろ、その…ありまして」
 普段の彼にしては妙に歯切れ悪い言い方。
「あいつの母親のほうの用事で一週間ほど出かけなければならないと言っていました」
「母親か…」
(ならば仕方ないな)
 彼が病の母親の為に軍に入ったという経緯は知っている。
 母親が退院してからも通院費や生活費その他もろもろのために彼はまだ軍にいる。
「わかった」
 ほっと彼が安堵のため息を吐く。
「ところで」
 とサインし終わった紙を渡しながらイングラムは尋ねた。
「どうしてリュウセイ本人が来ないのだ? ライディース」
「……」
 答えは告げないまま、彼は一礼して部屋を出ていった。
 ライの額はうっすら汗をかいていた。
 どうやら本当に深く追求されると困るようだ。
 そして結局イングラムは帰路についている。
 書類は終わらせて出してきた。
「別に…好きで帰るわけではない」
 と言うのも、執務室で終わった種類を出すか否か思案していたところに珍しい客がやってきた。
 その客は完成した書類を奪うようにして持ち、
「貴方は早く家に帰りなさい」
 と言ってさっさと出ていってしまった。男の意図はまだ分からない。だが彼も一週間ほど休暇をとったという噂を聞いた。
(この忙しい時期に…)
 ライもリュウセイもまだ未提出の書類が少なからずある。デスクワークが苦手なリュウセイのサポートでライも泊まり込みになることもあった。
(それにしても)
 帰りたくない…。
 今にも回れ右して基地に帰りたい精神を必死になだめ、やっと家の前までたどり着いたのはすでに夕暮れ。
 そしてその手にはなぜかスーパーの買い物袋が二つ。
 いつの間にやら奥さん姿が板についている自分がなんだか悲しいイングラムだった。
「…ただいま」
 戸を開けて数秒後。
 靴を脱いで一歩踏み出した途端、
「ままぁ、おかえり〜」
 青色の小さい塊がイングラムめがけて飛び出してきた。
「おまえの動きは手に取るように分かる」

すっ

 すでに予測済みだったので余裕の動作で軽く体をひねってかわす。
「きゃぅっ」
 見事プチスケンは玄関に落下…。

ぎゅうっ

「ぎゃっ」
 しかけて、すんでのところでイングラムの髪を一房掴んで宙ぶらりん。
 ちなみに先ほどの叫びは信じられないかもしれないがイングラムのものである。
「おーかーえーりー♪」
「……」
 ぶら下がりながら言うプチだが、イングラムはあまりの激痛に声も出ない状態。
「今日こそは一緒にお風呂入ろうね〜」

ぶら〜ん…ぶら〜ん……

「わかった…わかったから、その手を…離せ」
 なんとか言葉を絞り出すとプチはおとなしく髪から手を離した。
(抜けていないか)
 思わず頭に手がいって指に絡み付いたのは見事に抜けた髪の毛が数本。
 ぎろっとプチを睨み付ける。
「……」
「なあに?…うわぁ」
 無言のままプチの髪をぐわしっと掴み、
「いた〜っ、いたいってばぁ」
 もがくプチお構いなしにそのままダイニングへ。不機嫌そうな表情のままソファーの上に放り投げてさっさと夕食の準備を開始する。
「うわ〜ん、はげたらどうすんのぉ」
(それはこっちの台詞だ)
 しかし特に最近は手入れを怠っていたとはいえ、こんなに抜けるとはと内心かなり動揺していたイングラム。
 実はあのキラキラさらさらうねうね(?)ヘアーは並々ならぬ努力の賜物…だったりする。
「ねぇねぇ、今日の晩ご飯はなぁに?」
「…コロッケ」
 途中立ち寄ったスーパーでちょうどジャガイモが特売だったので大量に買い込んできたのだ。
 ジャガイモは冷凍は厳禁だが、未調理なら保存は利くしレパートリーも豊富。本日は挽肉とついでに野菜を入れてイングラム特製コロッケの出来上がり。
「ころっけってそんなにおやさいいれたっけ?」
「細かく刻んでいれれば食べられるだろう?」
 小さい子供特有の好き嫌い対策。細かく刻んで炒めて混ぜてしまえば入っているとは気がつかない。こうして嫌いなものも徐々に食べられるようにする。
(…と、本にあったな)
 イングラムの書斎にはまだまだ謎が多い。
「ところでユーゼスは?」
「おむかえのしらかわさんとこ〜」
「……」
(嫌な組み合わせだな)
 まさかお茶しに行った…ということはないだろうが帰ってきたら聞いたほうがいいな、などと思いつつ手はすばやく調理続行。
 少ししてコロッケの揚がる良い匂いがキッチンとダイニングを包む。
 それにつられたのかすぐにユーゼスが帰ってきた。
「おーかーえーり〜」
「イングラム、帰ったのか。それでプチ…一週間だそうだ」
「ふ〜ん」
(ここでも“一週間”か)
 いったい自分の周囲で何が起こっているのか。
「ふむ、コロッケか。どれ」
 いつの間にやら背後にいたユーゼスが揚げたてのコロッケを一つつまんで口に放り込んだ。
「…なかなかいける」
「ほう…このオレを前につまみ食いするとはいい度胸だな」
「私としてはここで
お前をつまみ食いしたいところだが?」
 するりと腰にまわされる腕。
 普段ならこのままとんでもないこと(イングラムの主観)になるのだが、
「プチがそこにいて、か?」
 実はお子様の目の前では教育上よろしくないということで交わされた条約が、プチの出現に対する副効果で唯一イングラムがありがたいと思うものだったりする。
「ならば気絶させて…」
「おい…(汗)」
 愛しの奥方様とうりふたつのプチを殴れるかと聞かれたらおそらく答えに窮するこの男は、しぶしぶ腕を放し小さく舌打ちしてダイニングへ戻っていった。


 その夜。
 そろそろ風呂にでも入ろうかと腰を浮かせたイングラムは、隣で“では私も”と立ち上がりかけたユーゼスを、
「一人で入れ」
 と一刀両断した後約束通りプチを伴って風呂に入った。
「ままのむねぺったんこ〜」

ぺたぺた…

「当たり前だ」
 あったらこっちが驚く、と内心思いつつ濡れないように束ねあげられたプチの髪を見てあることに気づく。
「青色…ではないのだな」
「?」
 プチの髪は遠目にはイングラムと同じ色だが、こうして近くでよく見ると微かに灰色がかかっている。
 瞳も同様でイングラムのように深い青ではなく少しくすんだ青色。
《二人の愛の結晶》
 どちらの性質も持った子供。
 どちらの可能性も秘めた子供。

 この場合、ユーゼスかイングラムかという二択が微妙ではあるが。

「では20数えてからあがろう」
「は〜い。いーち、にー、さーん、しーぃ、ごーぉ、ろーく、しーち、はーち……」
 楽しそうに数えるプチだが、イングラムはこのお子様が1から100までを2分10秒42という好タイム(自己ベスト)で数えきったことや、ユーゼスと円周率を100桁近くまで暗唱していることを知らない。
「きゅーぅ、てん!」
「?」
「いれぶん、とぅえるぶ、さーてぃん、ふぉーてぃん…」
「ぷ、プチ??」
「ふぃふてぃーん、ぜくしーん、じーぷしーん、あはしーん、のいんしーん、にじゅう!!」
「……」
 突っ込む気力すら喪失して数え終わったプチを抱えて脱衣所へ。手早く体を拭いて服を着させる。
「あ、そーだvv」
 と着終わったプチは脱衣所を出て行き、コップに何か入れてイングラムに持ってきた。
「はいっ、ぷちがつくったんだよ☆」
「ほう…」
 半透明のオレンジ色の液体。微かにする甘い香り。
「味見してvv」
「では…」
 一口飲んでみて…。
「うぐっ」
 あまりの味にコップを手にしたまましゃがみこむ。
「何を…入れた?」
「え? んっとぉ…」
 そしてプチの口から出てくる単語に己の耳を疑う。
 どこをとってもそれは薬品の名前で、食物と言える名前は一つたりとも出てこなかった。しかも次から次へと出てくること出てくること!!
 つまりこれはジュースではなく。
(…薬)
 気がついたときは既に遅く、喉に焼けるような痛みを感じて手で押さえる。
 必死に紡いだ声はひどくかすれていて。
「ゆーぜ…」
(こんな時に奴の名など)
 そして…。
「?」
 一気に気分が楽になった。
「??」
 目の前にはにこにこ顔のプチ。
「???」
 喉の痛みもない。しかし手にしているコップの中身が先ほどのことが現実だと告げている。
「だいせいこう♪」
「プチ?…?……っ!!?」
 発した自分の声に違和感を持ち首をかしげ、なんとなく鏡に視線を向けたとき。イングラムはプチの言った“だいせいこう”の意味を悟った。
 ……正直なところ悟りたくはなかったが。

「ぷちいぃぃぃぃ!!(怒)」

「きゃぁ〜〜」
 家をも揺るがす大絶叫とはこのこと。
「…騒がしいな」
 一人寂しくダイニングで雑誌を見ていたユーゼスは次いでばたばたと廊下を駆ける足音を聞いた。

ばたんっ

「ユーゼス! 今すぐ解毒剤を作れ。今すぐにだ!!」
「何をそんな、に…」

ばさっ

 言って振り返ったユーゼスの手から読みかけの雑誌が床に落ちる。
「こんな姿で人前に出られるか!!」
 扉の前でプチの襟首をわしづかみして仁王立ちしているイングラムは全体的にほっそりしていて。
 胸に二つ、豊かな膨らみがあった。


「なるほど…それで」
 状況を説明するとやっと納得できたとユーゼスが何度も頷く。
「解毒剤の必要はない。一週間もすれば元に戻る」
「なぜそう言い切れる?」
(また“一週間”)
 すべての事柄は“一週間”という一言で繋がっているような気がする。
 そしてユーゼスはイングラムが基地にいたここ数日のことを話し出した。


* * *


「かんせ〜」
 驚くべき短時間でその生成に成功したプチはそれを持ってお隣のブランシュタイン邸に出かけていった。
 そして数時間後、血相を変えたそこの旦那がユーゼスの家に駆け込んできた。
 曰く、
「今すぐリュウセイを元に戻してください」
 とのこと。
 さっぱり状況の飲み込めないユーゼスはブランシュタイン邸で衝撃の現場を目にする。
「らい〜〜(泣)」
 ソファーで困惑の表情を浮かべる奥方は本当に奥方になっていた。
 細身の体は更に線が細くなり、胸にはそれとわかる膨らみが…。
「プチが飲んでみてってこれを…」
 そう言って指差した先には昨日完成したばかりの例の薬。
「なんなんですか!? それはっ」
 ブチキレ寸前の旦那にユーゼスはため息交じりに言った。
「女性に変わる薬だ」


* * *


「詳しく調べた結果、効力は一週間。一時的に変わるだけだ」
「なるほど、それで」
 どうりでライが持ってきたはずだ。
 ユーゼス並に奥方第一なあの男のこと、リュウセイ(女)が基地に来ていらぬライバルを増やさないよう休暇をとったのだろう。
「ではシュウの“一週間”とは?」
「それはあの男がどこから聞きつけてきたのかプチの薬を分けろとやってきてな」
 そして同居(同棲?)中のマサキに飲ませて女性化したところで元に戻る前に式を挙げて籍に入れてしまおうという作戦だそうで、ユーゼスは効力が一週間しか持たないことを告げるために出かけていたそうだ。
「それでまさきはどーだったの?」
 プチのもっともな質問にユーゼスは苦笑混じりで答える。
「リュウセイから情報がいっていたらしく相当警戒していたよ」
「…で、オレはどうなる?」
 今一番重要な質問をすると、
「だから言っただろう。一週間すれば自然と元に戻る、と」
「しかしこのままではっ」
 こんな姿では仕事にならない…いや、基地にも行けやしない。
「お前も休暇をとればいいいだろう?」
 有給が溜まっていることだし、
「それをなぜお前が知っている」
「細かいことを気にするな」
 さらりと交わしてすっとユーゼスは距離を縮めてきた。
「なんだ?」
 ぎっと睨む眼光も女性化しては半減もしくは逆効果。
「いや、なかなか扇情的だと思ってな」
「っ!」
 そしてイングラム自身やっと気がついた。
 自分がパジャマの上しか着ていないことに。
 体が少し縮んでいるとはいえそう丈の長くない裾から覗くやけに白い生足は湯上がりの為かほんのりピンク色。いつもの癖で上まで留めていないボタン。しかも微妙に見えそうで見えない豊かな胸元。
 ユーゼスさん実はかなり理性がやばかったりしていた。
 この場に一緒にプチがいなかったら、目の前に現れた時点でその場に押し倒しておいしくいただいていたことだろう。
 イングラムは一瞬隣のプチに感謝しかけて、元凶が奴だと思い出してやめた。
「仕方がない。連絡は明日ライディースにでも頼むとして…オレは寝る」
「そうか…寝るのか」
 クククッと押し殺した低い笑い声に凄まじく嫌な予感。
「ところでプチ。お前、兄弟は欲しくないか?」
「きょーだい?」
「……(汗)」
 すっと逃げようとして腕を掴まえる。
「そう、兄弟だ。欲しいのなら協力しろ」
「うん! きょーりょくする」
「ま、待て…」
 よくわからないうちに提携を組んだユーゼスとプチ。
「では今日はおとなしくお前の部屋(元はイングラムの寝室)で一人で寝ろ」
「らじゃ〜」
 ぱたぱたと駆けていく足音。
 ばたんっと戸の閉まる音。
「ユーゼス…」
「二人目は男の子が良い? それとも女の子が良い?」
 でもってその一晩で、イングラムは知らなくても良いことの一つや二つや三つや四つを、とても口には言えないような体験と共に知ってしまったのだった。
 …ご愁傷様でした(合掌)。


それから一週間、結ばれた提携のおかげで“プチの兄弟制作”と好き勝手されて。
 休暇で日常よりも疲弊して一週間目。
「イングラム、水分を少し取っておけ」
 ぐてぇっとベッドに突っ伏すイングラムにユーゼスが液体の入ったコップを渡した。
「あぁ…」
 ガラガラ声で返事をして受け取ったコップの中身をあおろうとしてふと手を止める。
「ユーゼス。これは何だ?」
 すっと視線を反らされて疑惑は確信に変わった。
「オレを退役させる気か?」
「私の稼ぎで十分養っていけると思うが?」
 確かにそうだがイングラム本人としては誰かに養われるなど自身のプライドが許さない。
「それでこれは何だ?」
 質問を繰り返す。
「戻る前に飲めば効果が持続するようだから、その……」
 らしくもなく歯切れの悪いユーゼス。
 こめかみを引きつらせて睨む愛しい(名実ともに)奥方様はひどくご立腹の様子。
 しかし体を起こして軽く髪をかきあげるその仕草すら妖艶で。
 思わず魅入ってしまうユーゼスに彼(女)は背筋も凍る一言を投げつけた。
「そうだな、この容姿なら男には困らないだろうな」
「っ!!?」
 すうっとユーゼスの顔から血の気が引く。
 暗に言われた“別に相手はお前じゃなくてもいい”という言葉。
「……」
 言葉を失って黙ってしまったユーゼスをしばらく見ていて、
「はははっ」
 突然イングラムが笑い出した。
「???」
「オレはそんなに節操なしでもないし、今までもそしてこれからもお前以外とそういう関係になる気もない」
「それは…」
「自惚れるな。だからといっていつまでもここにいるとは思うな」
 くぎをさしておきながらも傍らで安堵の笑みを浮かべる男に苦笑を漏らす。
「ではそれまではここにいろ」
 ぶっきらぼうに言って引き寄せられる。
 慣れない台詞を耳まで真っ赤にして言う男の腕の中で、イングラムは肩をすくめる。
(オレも甘い…な)
 一見するとユーゼスの片思い−−−同居しているが−−−のような感じだが、それを受け入れているイングラムも案外まんざらでもないようだ。
「で、その手は何だ?」
 さっそく伸びてきた手の甲をつまみながら、早くも言わなければよかったかもしれないなどと後悔し始めていたり。

 そんなこんなで“一週間”は終わりを告げたのだった。


* * *


あとでままがこっそりおしえてくれたんだ。

おんなのひとでもおとこのひとでもあいてのことがたいせつで、だいすきで、あいしてるんだったらそれでいいんだって。

ぷちのこともたいせつで、だいすきで、あいしてるけど、ゆーぜすのとはちょっとちがうって。

でもゆーぜすにはないしょっていわれたの。

あと、ふよういにおくすりとかつくっちゃだめだっておこられちゃった。

でも…あとでしらかわはかせにおかしもらっちゃった☆

ひとのやくにたてるんだったらおくすりつくってもいいよね♪


プチスケンのご近所を巻き込んだ大革命の嵐はまだまだ当分続きそうな予感……。



Fin.




 言い訳じみた独り言

  瀬奈疾風さまのリクエストでプチスケンのイングラム・ママ化計画でした〜。
  なんか関係ないご近所まで巻き込んでましたがいかがでしたかでしょう?

  お風呂で数を数えるのって結構楽しかったりしませんか?
  あ、“ぜくしーん”とかドイツ語はライあたりから教えてもらったということで。
  のわりに発音が怪しかったり…。要お勉強ですわ(汗)