!注意!
執筆当時がα発売後で霊帝の設定を思いっきり捏造して書いています。
ツッコミ所多数かと思いますが、笑顔で流してもらえるとありがたいです。





貴方だけ


 彼女の姿を見つけたのは偶然。
 偵察していたメギロードのカメラの端に映っていた汝。
 しかし惹かれたのは偶然でも気の迷いでもない。
 緑に囲まれた公園の一角で、動物と戯れていた汝。

 あれからずっと、その笑顔が忘れられない。


* * *


 そこに連れて来られてから・・・いや、自室から連れ去られてから彼女はずっと怯えていた。
「どうして・・・こんなことをするの?」
 涙に濡れた頬。
 泣き腫らして赤くなり涙に潤む瞳。
 おそらく彼女の前に立った者は皆、酷い罪悪感に捕らわれるだろう。
 それは今彼女の目の前にいるこの男も例外に漏れず、普段の彼を知るものなら驚愕するような慌てた表情で成す術もなくおろおろしている。
「帰り、たい・・・」
 そう繰り返して泣く彼女。


 当たり前だ。
 彼女は自ら望んでここにいるわけではないのだから。
 ほんの数時間前。彼女は自分の部屋にいた。
 何事もなく終わろうとしていた一日。それが突然砕かれる。
 窓の外に光が溢れ、何事かとカーテンを開けた彼女の体を包み込んだ。そして気がつくと自分は見知らぬ部屋にいて、一見してどこかの兵士とわかる格好の男に別の場所に連れて行かれた。
 道すがらここが宇宙空間にある戦艦の中であることを知り、しかもそれが今人類が存亡をかけて戦っているという異星人のものであると知ったときの絶望感。
 艦内は相当広いらしく彼女はかなり歩かされた。
 そして連れてこられた先の部屋には銀の髪に同じく銀の瞳の長身の男がいた。
 自分を連れてきた兵士の言動からその男がかなりの地位にいることがわかったが、すぐに兵士は出ていってしまって室内に二人きりになった途端、そんなことは彼女の頭の中から消し飛んだ。
 相手は地球を侵略しようとしている異星人。
 自分がこれからどうなるのか・・・。

 ・・・・・・怖い。

 気がつくと頬を涙が伝っていた。
「どうして・・・こんなことをするの?」
 私が何をしたっていうの? 私をどうするの?
 涙は後から後から際限なくこぼれ続ける。
 しまいには彼女はその場に崩れ落ちるようして座り込み、両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「帰り、たい・・・お願いだから、帰して」
 そう何度も繰り返しながら。

ふわりっ

 不意に彼女の体を何か柔らかくて暖かいものが包み込んだ。
 驚いて顔を上げるとそれは漆黒のマント。男が彼女の体をそっと抱きしめていたのだった。
「頼むから泣かないでくれ。汝の涙、胸が痛む」
 上等なものらしいマントの感触は思いのほか柔らかく、怯える彼女の心までも優しく包み込む。
 しばらくそうされているうちに不思議なことに恐怖が薄らいでいった。
 服越しに聞こえる相手の心音。自分の鼓動よりやや早いそれ。
「ありがとう・・・もう、大丈夫だから」
 軽く相手の胸を押すと望むままに開放された。マント同様上等そうなソファーを勧められ座ると、彼もその隣に腰を下ろす。
 もちろん彼女がまた怯えないように適度に距離を置いて。
 そんな彼の小さな心遣いが嬉しかった。
 そしてゆっくりと室内を見回す余裕が生まれる。
 とりあえずわかったのはこの傍らに座る男が相当な地位の持ち主であること。なんたって視界に入る調度品のどれもが―――落ち着いた風合いに見えるのだが―――高価そうだったのだ。
 今座っているソファーだっておそらく彼女が一生かけて死に物狂いで働いて稼いでも買えそうもない。
「落ち着いたか?」
 思わずついたため息を深呼吸と勘違いしたのか男が尋ねた。
「・・・はい」
 ソファーに腰掛けた時点で気分はだいぶ落ち着いていた。
「すまない・・・いや、謝って済むことではないな」
 男の声はやや低めで良く通る。
「そう思うのなら最初からしなければいいのに」
 言ってしまってから彼女はしまったと口を手で押さえた。
 ここは宇宙空間で異星人の戦艦の中で、目の前にいるのは少なくとも幹部クラスの男。下手に逆らって怒りを買って殺されるかもしれない。
「ご、ごめんなさい・・・」
 しかし予想に反して彼は本当にすまなそうな表情で彼女に言った。
「いや、汝の言うとおりだ。理由も告げず、いきなりこのような所に連れてこられれば誰であっても混乱し怯えるだろう」
 何か温かい飲み物でもと彼が立ち上がった。
「紅茶くらい私が入れます」
 腰を浮かせて彼が手に取った缶と開けたときに漂ってきた香りから適当に見当をつけてそう言うと、彼は振り返って、
「汝は余の招いた客人だ。客人は客人らしくもてなされているものだ」
「はい・・・」
 部屋の主にそう言われてしまっては仕方がない。おとなしく座りなおす。
(客人か・・・今のところは)
 ぼんやりとそんなことを考えながら彼が紅茶を入れるのを見る。
 使い込まれているカップにティーポット。よく自分で入れているのか手際はいい。
「レムナとミューク、どちらがいい?」
 いきなり聞かれて首をかしげた。
「それは、なに?」
「あぁ、地球にはないのだな」
 納得したのか何度も頷いてトレーに湯気を立てているティーポットとカップを二つ乗せて戻ってきた。
「これがレムナ。こっちがミュークだ」
 どうやらレモンとミルクのようなものらしい。彼女はミュークという名の白い液体の入った陶器の入れ物を取って自分のカップに静かに注いだ。
 ふわりと鼻をくすぐる甘い香り。
「いただきます」
 不思議と毒が入っているかもしれないという疑問は浮かんでこなかった。
 一口、飲んでみる。
「・・・美味しい」
「そうか」
 ほっと彼が安堵の息をつく。
「そうだ、まだ名を名乗っていなかったな。余の名はラオデキヤ=ジュデッカ=ゴッツォ。霊帝よりこの第七艦隊の総司令を任された者だ」
「え?」
 カップを手にしたまま、彼女は固まった。


* * *


か、良い名だ」
「そんなこと・・・ないです」
 一杯の紅茶の力には目を見張るものがあった。さっきまでの緊張が嘘のようになくなってしまって、今は笑みさえ浮かべられる。
 それにお互いのことを少しずつ教えあったのも効果を倍増させた。
「ふふっ」
 口元を押さえて笑うにラオデキヤは薄く笑みを浮かべて返した。
「もう怖がらないのだな」
「だって貴方は私に危害を加えないでしょう? でもこれだけは教えて。どうして私をここまで連れてきたの?」
「・・・」
 途端にラオデキヤは沈黙して視線を反らしてしまう。
「答えて? これだけは譲れないの」
「・・・た」
 不意にラオデキヤが何事か呟いた。
「え?」
「汝を・・・」
「私を?」
 意を決してラオデキヤが口を開いた。
 彼の表情は真剣そのもの。
「汝を、愛してしまった。汝を前にしてもうこの想いを偽ることなどできぬ」
 は呆然としたまま動けない。
 そうだろう。いきなり連れてこられた先で、しかも相手は異星人で地球に侵略してきている部隊の総司令なのだ。
 戸惑わないほうがおかしい。
「・・・・・・」
 しかしどうしてか拒む言葉は出てこなかった。むしろ・・・。
(私・・・喜んで、る?)
 目の前のこの男にこんなに真剣に告白されてすごく嬉しい。
 幸せだって感じている。
 自分の中に知らず育っていた感情に戸惑う。一方ラオデキヤの方は沈黙されてしまって成す術なし。
 と、
「失礼する」
 ノックもなしに扉が開いて長身の男が部屋に入ってきた。
 揺れる深青色の髪。そして同じ色の瞳がを見つけて微かに安堵の色を見せた。
「何事だ? 有事でなければ部屋には入らないよう申しておいたはずだが?」
 イングラム=プリスケン、とラオデキヤは男の名を呼んだ。
「用がないのであれば早々に退出せよ」
 さきほどまでとはうって変わった鋭い眼差しと口調。
「総司令、貴方は自分が何をしているのかわかっているのですか?」
 丁寧口調は崩さないもののそれとわかる威嚇の声音。
「侵略先の女性に心奪われるなど帝国の、そしては霊帝に対する反逆と取られてもおかしくはないのですよ?」
「言いたいことはそれだけか?」
 すでに想いを告げてしまったというある種開き直りでラオデキヤは一言返しただけだった。
「用がなければ早々に退出せよ」
「・・・っ」
 くっと唇をかんだイングラムだったが、が呆然と反応を返していないことを見て作戦を変えた。
「それで彼女は受け入れたのですか?」
「っ!」
(そうか・・・まだ返事はもらっていないらしいな。くくくっ、好都合だ)
「さぁ、帰ろう」
「あ・・・」
 抵抗するまもなく腕をつかまれて立ち上がらされたはそのままイングラムに部屋から連れ出された。
「痛いっ、どこへ行くの?」
「お前の元いた場所。地球にだ」
 そして行き着いた先は格納庫。そこで漆黒の機体に押し込められて、機体はそのまま宇宙に飛び出した。
 そのままある方向に向かって飛んでいく。
 向かうは・・・地球。


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