2.5for α


 某世界で"愛の結晶一号"を中心に勢いを増す革命の嵐。
 それは時間も空間も越えて周囲の平行空間にまではた迷惑な影響をもたらしていた。

 これはそんなとばっちりを食らったある世界のお話。


* * *


「イングラム=プリスケン・・・只今帰還しました」
 続いて手短に報告を済ませたイングラムは疲れた体を休ませようと一礼して退出しようときびすを返した。
 今日は特にろくなことがなかったのだ。
 部下には告白されるし争奪戦に巻き込まれるし・・・ともかく心身ともに疲れていた。
 だから今すぐにでも仮眠室でゆっくり眠りたいのだが・・・。
「ご苦労。詳しい話はあちらで聞こう」
 彼の上司(?)はそんなことお構いなしに彼女の腕を掴むと、
「なっ、ちょっと待て!」
 本人の抵抗も気にせず、周囲が動く前にさっさと退出してしまった。


「先を越された」
 二人の去った後の司令室に小さく漏れたため息。
「ユーゼス直属を許したが・・・選択を誤った、か」

「なぁなぁ、聞いたか? 地球側に送り込まれてた彼女が帰ってきたんだって」
 所変わってこちらはある一般兵たちの会話。
「知ってるよ。さっき通路を歩いてくのを見たんだ」
「うわっ、うらやまし〜〜」

 イングラム=プリスケン。
 通称ラオデキヤ艦隊と呼ばれる帝国観察軍第七艦隊から地球に送り込まれたスパイにして、ラオデキヤ艦隊内において名を知らぬ者はいない多数の隠れファンの間で隠し撮りの写真が高値で取引されているという、きつめの美人で有名な
女性である。


 イングラムが連れてこられた先は―――予想していた通り―――腕を掴む本人の自室。
「何のつもりだ?」
「誰かに触れられてはいないだろうな?」
 答えの代わりに彼はイングラムの頬に指を這わせた。
 会えなかった溝を埋めるかのように頬の輪郭を何度もなぞられる。しているユーゼスはある種恍惚としているが、されているイングラムは肩を強張らせて頬を引きつらせている。
「お前に心配される言われはない!」
 ぱしっと手を払ってイングラムはきびすを返した。
 はっきり言ってこの場所にこれ以上いたくはない。このまま無抵抗にしていると何をされるかわかったものではない!!
「失礼する」
 が、何故か扉は開かない。
 内側からも開かないオートロック式の扉・・・なんてものがこの世の中に存在して果たしていいのだろうか。
「この私から逃げられるとでも思っていたのか?」
 背後からくくくっという笑い声。
 引きずられるままここまで来てしまったことをイングラムは激しく後悔した。
 そして何故か前にも似たような目にあったような不思議なデジャ・ヴを感じていた。
 と・・・。

コンコンッ

 誰かが扉をノックする。
「誰だ?」
「副指令。荷物が届きましたのでお持ちしました」
「鍵は開いている。中に運び込め」
 シュンッと何事もなかったかのようにドアは開き、何やら大小様々な大きさの箱を大量に抱えた一般兵たちがぞろぞろ入ってきた。
 ユーゼスに指示された場所に次々と置かれていく箱たち。すぐに部屋の一角はその箱に占領されてしまった。
「以上です」
「ご苦労。下がっていい」
「はっ」
 敬礼して出て行く兵士たち。
 それに続いて出て行こうとしたイングラムだったがやはりユーゼスに見つかってしまい、お姫様抱きされた挙句ベッドに放り上げられた。
 そしてお約束通り上からのしかかられる。
「はな、せっ・・・どけ!」
「もう少し女性らしく振舞ったらどうだ?」
「余計な世話だっ」
 それはもっともである。
 しかし皮肉混じりの台詞すらユーゼスには可愛い抵抗(=誘う仕草)にしか映っていないらしく、
「ふっ」
 と小さく笑みをこぼして彼は仮面を外し静かに近くのテーブルの上に置いた。
 肩からこぼれ落ちる銀の髪。
 それが押し倒されているイングラムの頬に触れる。
 並の女性なら思わず息を飲むような整った顔立ち。流れる銀の髪と同じく銀の瞳はどこか幻想的で、思わずぼぉっと見つめてしまったイングラム。そして気がつくと上着を脱がされていて、今まさにインナーに手をかけようとしているところ。
「っ! 何を・・・する!!」
 押しのけようとした手は逆に片手で容易に束ねられ頭上に固定。こういう時、自分が女だと実感させられる。
 ・・・などと脳が思わず現実逃避しかけて慌てて意識を体に引き戻す。
「離せ・・・どけ!」
「そうだな・・・このままでは面白くない、か」
 不意にユーゼスが彼女の豊かな胸に触れていた手を離し上から退いた。押さえつけられていた手も外されて、弾かれたように起き上がったイングラムは近くにあったシーツを引き寄せつつ相手と距離を置く。
「そう警戒するな」
「そういう台詞は自分の行動を改めてから言え」
 ベッドの端に腰掛けてユーゼスは頬に薄く笑みを浮かべていた。
 ぞくぞくぅっと謎の悪寒がイングラムの背を駆け抜ける。
「お前のために取り寄せた。好きなものを選べ」
 指差す先には例の箱の山。
「・・・オレの、ため?」
 警戒は解かぬままベッドを降りて箱の山の前に立つ。
「オレが選ぶのか?」
 一番上にあった箱を手にとって振り返るとユーゼスは頷いて開けるよう促した。
 不審に思いつつもとりあえず開けてみたのだが・・・。
「・・・これは」
 それを手にとってしばし呆然。
 かたんっと箱が彼女の手を離れ床に落ちた。
「・・・・・・」
 イングラムの体が肩から手にかけて小刻みに震える。
 その手に握られているもの。
 純白の・・・
ナース服。
 ギギギっと音がしそうな機械的なぎこちない動作でイングラムが振り返る。その表情が引きつっているのは誰の目にも明らかだ。
「これを・・・どうしろと?」
「着て見せろ」
「な・・・に?」
 一瞬脳が言葉を理解するのを拒否した。
「聞こえなかったのか? 私は"着て見せろ"と言ったのだが?」
「・・・誰が?」
 ナース服を引きちぎらんばかりに握り締めて言うと、
「お前が」
 当然とばかりの回答。
「・・・オレが?」
「他に誰がいるという。あぁ、気に入らないのなら別のでもかまわないぞ」
 とりあえず他の箱も参考程度に開けてみたのだが・・・。
「・・・・・・」
 出てきたのは下着が見えんばかりのスカート丈の短いメイド服、スチュワーデスの制服、セーラー服にOLが着てそうなスーツ、太腿も露な大胆なスリットの入った薄地のドレス、少女が着たら大きいお兄さんが喜びそうな(笑)ふりふりのロリ衣装、新妻さん専用ふりふりエプロン...etc
 ちなみに・・・というか当然というか、どの服もイングラムのサイズできっちり作られている。
 途中から精神が箱を開けるのを拒否しだしたがかまわず開けていく。
 それも桐の箱から見事な振袖やら、果てにはきわどいデザインの水着の類まで出てくるともう我慢は限界。手にしていた服を置いて怒りの形相でユーゼスを睨みつけた。
「どういう理由でオレが着なくてはならん?」
「女が"オレ"などというな」
 そこら辺は本当に余計なお世話なのだが・・・それはおいといてユーゼスは至極まじめな表情で答えた。
私が見たいからだ」
「・・・失礼する」
 きびすを返して部屋を出ようとするが、やはり扉は開かない。
 それならいっそ蹴破ろうかと思い始めたイングラムにユーゼスが背後から忍び寄る。
 気配に振り返ろうとしたときにはもう遅い。がっちり抱きしめられて耳元に熱い吐息。

ぞくぞくぅ

「私自ら着替えさせられたいのならそうするが?」
 それは謹んで辞退させていただきたいが、できればそれを着ること自体謹んで辞退したい・・・。
 などと言えるはずもなく。
 半ば諦めムードを漂わせ、請われるまま手短にあった服に手を伸ばした。


* * *


 どこから調達してきたのか全身が映る大きな鏡の前でイングラムは頬が引きつり青ざめた表情のナースな自分と対峙した。
「なかなか似合うな」
 それがよほど気に入ったのか珍しくユーゼスも鏡にその身を映している。
 普段なら鏡を目にした途端憤怒の形相で叩き割るというのに。
「これで気は済んだな? ではこれで・・・」
「何を言っている。次だ」
 戦闘時とはまた別の嬉々とした表情で山積みになった服を差す。
 イングラムにそれを拒む術はなかった。


 その後、とっかえひっかえ服を着て鏡の前に立たされた。
 始めこそ悪戯に伸びる手を叩き落していたイングラムだったが、最後の方ではその気力も失せて戯れに触れる程度ならもう抵抗しない状態に陥っていた。
 それでもさすがに服の中に手を入れられそうになったら逃げたし、スクール水着やバニーガールの衣装などいろんな意味でヤバそうなものは突っぱねて拒みはしたが。


「これで・・・最後だ」
 純白のウェディングドレスを脱いで始めに着ていた服に着替えて、イングラムは安堵のため息をついた。
 これで終わり・・・やっと開放される。
 ・・・・・・などと、そう簡単に話は終わらない。
 なんたってまだ開けられていない箱が一つ、脱ぎ散らかした服の脇にちょこんと残っているのだから。
「ここにまだあるぞ」
 とユーゼス。
「それは服ではない」
 言ってイングラムは箱を開けた。
 出てきたのは上等な幅の広い反物。
「これは仕立て忘れだろう?」
 広げてみてもそれはただ反物で縫い目も何も見当たらない。
「いや、それでいい。それはサリーといって体に直接巻きつけて着る服だ」
「サリー・・・?」
 ちなみにそれはれっきとしたインドの民族衣装である。
 しかし、ユーゼスはどこでその服の存在を知ったのか・・・謎だ。
「服の上からでいい」
「それなら」
 ということで長い長いそれを苦労して体に巻きつけていく。  最後に腰のところに端を押し込んで止めて鏡の前に立つ。
「これでいいか?」
「十分だ」
 ずり落ちないようにきつく巻きつけたからか、こうして見るとやたら腰のくびれと胸が強調されているのがわかる。
「それなら先に扉のロックを解除してくれ」
 言いながら押し込めた布の先を引っ張り出したのだが、それをいきなりユーゼスが掴みイングラムの腰を抱き寄せて耳元に囁いた。
「お楽しみはこれからだ」
 そして掴んだ布の端を思いっきり強く引っ張った。
「なっ・・・!!?」
 引かれるまま解けていく布。そしてそれに引きずられてイングラムの体がくるっと回る。
 言うなれば時代劇などでお馴染みの悪代官が娘の着物の帯紐を一気に引っ張るアレ。
 さすがに『あ〜れぇ〜〜』なんてお約束な声は出さないものの突然のことに踏みとどまることもできず、布が全て床に落ちるまで回る羽目になったイングラム。
 反対側の布の端が床に落ちる頃には完全に平衡感覚を失って、ユーゼスが軽く押しただけで簡単にベッドの上に倒れこんだ。
「ふむ・・・さすがに2m分では目を回すか」
 それはイングラムだからであって、普通の人間ならまず気分が悪くなるだろう。
「さて、これからがvv」
 呟いて、ユーゼスはベッドの端に膝を乗せた。


 それからイングラムは目を回して抵抗できないのをいいことにユーゼスに好き勝手され、その後数日にわたってベッドから起きられないような状態になっていたそうだ。
 まぁ何があったのか詳しく知りたいのであれば本人に直接聞いてほしい。
 ただし虚空の彼方に消え去る覚悟があれば、だが。


* * *


「ユーゼス、一つ聞きたい」
 ベッドの上の住人となっているイングラムが上半身だけ起こして言った。
「何だ?」
 対称的にユーゼスはすこぶる元気で機嫌がいい。
「テーブルの上にあるそれは何だ?」
 視線の先。ナイトテーブルの上にある小型の機械らしきもの。
 それを手にとってユーゼスはベッドの端に腰を下ろした。
「上手く撮れているぞ」
 目の前に置かれた機械の液晶ディスプレイ。
「なっ・・・」
 それに映るものにイングラムは思わず頬を染めた。

 引きつった表情のナース服の自分。

 矢印ボタンをユーゼスが押すと次々と現れる彼女のコスプレ姿。
 どうやらそれはデジカメの類らしい。イングラムの朱の走る顔が徐々に青ざめていく。
「ふむ・・・なかなか良い」
「何が"なかなか良い"だ。こんなもの全て消してしまえ!」
 ユーゼスが制するのもかまわず消去―――とわきに書いてあった―――ボタンを押す。ピッと電子音を立てて記憶されていた情報が消える。
「これで・・・」
「言っておくがバックアップはしっかりとってあるからな」
 そこら辺は用意周到というか確信犯というか・・・。
「・・・・・・バックアップをよこせ」
「だからもう少し女らしく・・・」
 くどい。
 しかしイングラムにはもう一つ、腑に落ちないことがあった。
「もう一つ。この服はどうした?」
「そんなことか」
 ユーゼスはデジカメ片手に先日あったことを話して聞かせた。


 その日も変わらずメギロードを使って地球の偵察を行っていたユーゼス。
「高エネルギー反応? 場所は・・・日本の東京辺りか」
 前日までは見られなかったその反応を辿っていくと、発生源はどうやら大きな施設の中らしい。
 一見して軍事施設や研究機関の類には見えない。
 変わったことといえばその建物を中心に人が密集しているといったところか。その誰もが手に手に本や袋など荷物を大量に抱えて長い列を作っている。
「新たなエネルギー開発の実験か?」
 興味を持ったユーゼスはそのまま観察を続けた。
 そして・・・現在に至る。


「そこでどうしてこうなる?」
 説明されたもののさっぱりわからないイングラム。
「その施設の一角で一風変わった衣装を着てカメラに収めている集団があった」
 どうやらそれを見て自分もやってみたいと思ったらしい。
 そしてあちこちから衣装を取り寄せたという。趣味がかなり偏っているような気もするが・・・。
「調査の過程で知り合った地球人に選んでもらったのだが・・・」
「それは誰だ?」
 知り合いだったら絶対に報復してやると心に誓って。
「お互い名は聞かないという約束だったが、本人はDCの高い地位の人間、と言っていた」
 瞬時に脳裏に浮かんだのはこいつだけではないでくれと思っていた人物。
「もしや・・・長身で紫の髪の油断ならない雰囲気の男ではないか?」
「知り合いか?」
 相手の姿を脳裏に描きつつ、"報復は無理かもしれない・・・"という思いが胸をよぎった。
「さて、次の荷物が届くのが楽しみだ」
 これからも続く(らしい)地獄の日々を思ってイングラムはぱたりとベッドに突っ伏した。



 余談だが・・・。
「なぁ、ライ。この間の休みに出かけてった先でやなもん見たんだけど・・・」
「この間・・・あぁ、あの休暇申請で行ってきたアレか。それで何を見たんだ?」
「上空からコスプレ集団見てるメギロード」
「・・・・・・」
「それとデジカメ片手に会場内歩いてたシラカワ博士」
「・・・もしや」
「うん。シラカワ博士小脇にデ○コのコスした緑の髪の人抱えてたんだ。おれ、怖くなって追いかけなかったんだけど・・・」
「賢明な判断だな」
 季節は夏。
 リュウセイの行った先にしてユーゼスの高エネルギー反応の発生源。
 それは・・・・・・。


Fin.




言い訳じみた独り言

  先に白状しときます。
 私はそこに行ったことがないのでそこらへんの描写は適当です。
  改めまして、朝甫さまのリクエストでα版ユーインかつ女性な少佐殿でした。
 朝甫さま、お待たせしましてすいません。
  最近夢ものばかりだったのでかな〜りはじけ☆ました。
  はじけついでに短いオマケ付き。
 よろしければどうぞ。